世界が変革の時代を迎えている今。誰もが、混迷の中にいるといっても過言ではない。何が正しくて、何が正しくないのか、見えない時代の中で成功をつかむためには、どうしたら良いのか。14年連続、ミシュランガイドで三つ星に輝く「カンテサンス」オーナーシェフ、岸田周三氏にお話をお聞きした。
私は、料理というのは、加工業だと思っています。素材がなければ仕事ができないということを、忘れてはいけないでしょう。生産者の生活をどのように支えるか、さらに、資源の枯渇は深刻な問題で、カンテサンス を開店した15年前とは全く違います。限りある資源をどのように使っていくかが問われていると言えます。枯渇が問題視されている水産資源をはじめ、これから何十年経っても、おいしい料理が作れるように、食材を取り巻く環境に常に意識を持ち、自分たちに何ができるかを考えて欲しいと思います。
今は情報が多く、スピードも速いですから、世間に流されずに、自分のスタイルを見つける、というのは特に難しいことだと思います。私自身も、料理人になってから10年以上かかりました。大切なのは、自分でたくさんのものを見て、食べて、感動することです。私も若い頃から、生活を切り詰めてでもレストランに行き、様々なジャンルの料理を食べて「同じ感動レベルのものを作るにはどうしたらいいか」ということを考え続けました。食べたものはノートに書き出して、自分だったらこう作る、こんな店にしたい、ということを細かく書き溜めてきたのです。当時は大発明だと思っていたんですが、先日久しぶりに取り出して見たら、大したことは書いてなかった(笑)でも、それでいいんです。大切なのは、考え続けること。今は、インターネットの普及で情報は格段に増えました。色々なことがすぐわかる反面、自分の頭で考え、探すことが疎かになっていないかが心配です。インターネットに答えがあるものなら、調べれば良いと思います。でも、お客さんに自分が何を食べさせたいか、は自分の中にしか答えがないはずです。『自分がおいしかった記憶を、自分の料理にして、ゲストに追体験させる』のが料理なのですから。他の人のアイデアをいただいて、できの悪い偽物を作る必要はないのです。
若いうちは、時間が無限にあるように錯覚しますが、実は時間なんて全然ないのです。私は30歳までに料理長になりたい、と目標を立てました。10代後半で料理学校を卒業したので、10年ほどしかない。パンや菓子も勉強したいと思ったら、全然時間がないのです。自分の理想のキャリア像の年表を作って、その目標に対して逆算して行けば、今やるべき短期的な目標が見えてくる。今日、今週、と言った短期的なゴールをたくさん作ることが大切です。例えば、今日1日のゴールであれば、注意されたことを2度くりかえさない、でもいいですし、今週というスパンであれば、克服したい課題を決めたら、先輩に相談して、やり方や方向性を確認するのも良いでしょう。やってみて、成長しなければ、その方法が間違っているのです。そう感じたら、次の方法を探す。それを繰り返すことで、道が見えてくると思います。
Shuzo Kishida
1974年生まれ。志摩観光ホテル「ラ・メール」などを経て渡仏。 2003年「アストランス」でパスカル・バルボ氏に師事。帰国後に立ち上げた「カンテサンス」はオープン翌年2007年より14年連続でミシュラン三ツ星を獲得。未来の食を見据え、水産資源の保護活動にも積極的に取り組む。
取材・文・撮影 = 仲山今日子
仲山今日子
ワールド・レストラン・アワーズ審査員。元テレビ山梨、テレビ神奈川ニュースキャスター。シンガポール在住時、国営ラジオ局でDJとして勤務。世界約50ヶ国を訪ね、取材した飲食店や食文化について日本・シンガポール・イタリアなどの新聞・雑誌に執筆中。