まだ知られざる中国料理の技術「水発」「油発」


失われつつある中国料理の技術を伝えたい

一品目は豚のアキレス腱を油発で戻して作る「豚のアキレス腱の白湯(パイタン)煮込み」。「油発は中国料理でもあまり行われなくなってきている技術です。時間もかかりますし、その魅力を理解してくださるお客さまも多いわけではありません。しかし、この油発も中国料理の大切な技術のひとつですから、今回ご紹介したいと思います」

豚のアキレス腱の白湯煮込み
豚のアキレス腱の白湯煮込み

中国料理でも今では珍しいという「油発」という技術を使った料理。しっかりと染み込んだ白湯の味わいとともに、プリプリとしたなかにもコシのあるような食感を楽しむ。

使用するのは豚のアキレス腱。中国料理には豚のほか牛や羊、満漢全席にも登場する高価な鹿のアキレス腱などがあるが、もっとも親しまれ凡用性も高いという豚のアキレス腱の乾物を選んだ。
これを常温の油にひと晩浸けて油を染み込ませたあと、ごく弱い火にかけ、絶えず混ぜながら分前後かけて油の温度を徐々に180度にまで上げていく。最後に大さじ杯程度の水を入れて蓋をし、熱した油と水を反応させ爆ぜさせる。この工程でアキレス腱がもとの倍程度にまで膨らみ油発は終了。大切なのは、とにかく焦らず急がず、時間をかけること。急いだり火を強めたりするとアキレス腱が十分に戻らず、硬さが残るという。

豚のアキレス腱の乾物を油発で戻す。弱火でじっくりと時間をかけて油の温度を上げていくことでアキレス腱が膨らんでいき、繊維の中に気泡ができてスポンジ状になる。
戻した豚のアキレス腱を白湯で煮込む。湯発で戻すことでできた気泡の中に白湯スープが染み込み、食べたときに口の中に溢れ出る味わいがより深いものになる。
戻した豚のアキレス腱を白湯で煮込む。湯発で戻すことでできた気泡の中に白湯スープが染み込み、食べたときに口の中に溢れ出る味わいがより深いものになる。

油発の特徴は、乾物が熱した油の中で膨らむことで、繊維の中に気泡ができスポンジ状になること。これを煮込みにすると気泡の中にソースがよく染み込み、味わい深い仕上がりになるのだ。油発で戻したアキレス腱はさらに湯に入れて火にかけ、紹興酒、ショウガ、ネギとともに30分〜1時間ほど煮てやわらかくする。これを最後の仕上げに白湯でさっと煮込んで完成。プリプリとしたなかにもコシのような心地よい歯ごたえがあり、スープのしっかり染み込んだ、乾物ならでは、油発ならではの食感と味わいが楽しめる一品ができ上がった。

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