まだ知られざる中国料理の技術「水発」「油発」


旨味だけではなく乾物ならではの食感も魅力

二品目は、乾燥スルメイカを使った「宮保鱿魚(ゴンパオヨウユィ)」。日本では炙って食べることの多いスルメイカだが、水発で戻して調理するこの料理は中国では古くから親しまれているのだとか。まず、乾物をやわらかくするというかん水を水に混ぜ、これにスルメイカを浸ける。12時間ほどで取り出し、3〜4時間流水に当ててかん水を抜けば水発は終了。戻したスルメイカはさっと茹でたあと油通しをして、朝天椒(唐辛子)や花椒(四川山椒)などと炒めて仕上げる。

水発で戻したスルメイカは炒め物に。やわらかく戻したあとさらに細かな切り目を入れ、茹でて油通ししてから炒めることで、生のイカにはない独特の食感を生み出す。
水発で戻したスルメイカは炒め物に。やわらかく戻したあとさらに細かな切り目を入れ、茹でて油通ししてから炒めることで、生のイカにはない独特の食感を生み出す。
宮保鱿魚(ゴンパオヨウユィ)

スルメイカの乾物を水で戻して炒めるという、日本ではあまり馴染みがないが中国では古くから親しまれている料理。やわらかく歯切れのよい、生のイカにはない食感。

この料理では、中国で好まれている「滑(ファ)」や「脆(ツイ)」という、やわらかく歯切れの良い食感を楽しむ。「もともと乾物は長期保存ができるように生み出されたものですが、決して生鮮の物の代用品ではなく、まったく別の魅力を持つ食材です。ホタテやエビのように旨味を増した乾物もあれば、今回のアキレス腱やスルメイカのように独特の食感を楽しむ乾物もあります。中国料理の乾物の魅力をもっと広く知ってもらいたいですね」と語る田村さん。今回の二品を通して、種類の多さもさることながら、めざす味わいや食感のために長い時間といくつもの工程を重ねて調理する、中国の乾物の奥深さを伝えてくれた。

幅広い技術がある中国料理
乾物の調理もまた奥深い

日頃から挑戦を重ねることで得られた技術を使い、日本では珍しい乾物の料理を披露してくれた田村さん。旨味のほかにも乾物ならではの魅力があることを教えてくれた。

田村亮介/Ryosuke Tamura
1977年東京都生まれ。
横浜中華街「翠香園」などを経て、四川料理「麻布長江」長坂松夫さんのもと修業。2006年「麻布長江 香福筵」の料理長に就任し、 2009年同店のオーナーシェフに。

麻布長江 香福筵

麻布長江 香福筵
Azabu Choko Koufukuen
東京都港区西麻布1-13-14
03-3796-7835
● 11:30~14:30LO(土日祝は12:00~) 18:00~22:00LO
● 月休
● コース 昼3800円~、夜7000円~
● 44席


河﨑志乃=取材、文 今清水隆宏、土岐節子=撮影 

本記事は雑誌料理王国284号(2018年4月号)の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は284号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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