知れば知るほど奥深い「乾物」使いの知恵と技!第二弾【乾物の戻し方】


「乾物」は、奥深い中国料理の知恵のひとつ。もし、その知恵と技を中国料理以外のシェフが活用したら――。料理の可能性は格段に広がるだろう。中国料理の伝統に正面から向き合い、手間のかかる乾物使いにもこだわる田村亮介さんに、初心者でもわかる乾物使いについて聞いた【第二弾】

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食感や旨味、風味などが自在に操れる。
水で、油で「乾物」の5つの戻し方

麻布長江 香福筳 田村亮介さん

和食でもさまざまな乾物を使うが、乾物に求める効果やイメージが中国料理とは異なるため、戻す方法や着地点が自ずと違ってくる。たとえば、やわらかさでいえば、和食に比べて中国料理のほうがやわらかく戻す傾向にある。「乾物を水の中に入れたら温度をゆっくりと上げ、沸騰したら、今度はゆっくりと下げる。この温度を下げる時の〝ゆっくり〞が、乾物を膨張させ、弾力がありつつも、やわらかに仕上げるポイントです」。

そのためには大きな調理器具を使い、火から下ろしたらそのままの状態で放置しておく。営業の合間に、加熱しては冷ます、を気長に繰り返す。それも10回以上。だから、たとえばフカヒレを戻すには5日以上、ナマコや干しアワビなら、軽く1週間はかかるという。

「中国料理に求められるのは瞬発力だけではありません。乾物は1週間先のお客さまの来店をイメージしながら戻す。ですから、そういう意味では〝段取り〞の料理なんですよ」と田村さんは言う。

麻布長江 香福筳 田村亮介シェフによる「油戻しの豚のアキレスケンとネギ、たまり醤油煮込み」。じっくり加熱して甘味を引き出したネギと、油で戻してたまり醤油で風味付けしたアキレスケンとの相性は抜群。
油戻しの豚のアキレスケンとネギ、たまり醤油煮込み
じっくり加熱して甘味を引き出したネギと、油で戻してたまり醤油で風味付けしたアキレスケンとの相性は抜群。

自分流の乾物使いを追求することも大切

戻し状態を比べると、中国料理の〝ちょうどよい〞が、和食では〝戻しすぎ〞と判断されることもある。しかし田村さんは、その違いにこそ乾物の面白さや可能性を感じている。

「極端な言い方をするなら、戻し方にルールはなく、自分の料理に合わせて、食感や硬さなど自由に変えていいと思います。特に現代は、ルールやジャンルに縛られることなく、素材を見て、それを活かす調理法を発見することが大切な時代です」

また、乾物は単に生食材の「代用品」ではない。それを認識することも大切だと田村さんは言う。
「乾物には〝生〞にはない凝縮感がある。中国料理では、〝生〞と〝乾物〞はまったく別の食材と捉えます。時間が旨味を倍加させる。そう考えると、知っている食材の領域がぐんと広がると思いませんか」

最近注目されている料理人の中には、茶道や禅の世界観を中国料理で表現するなど、和食と中国料理の融合をめざす人も増えている。実際にフランス料理に乾物を活用して、ジャンルミックスに挑戦しているシェフもいる。オリジナリティーの表現に、乾物がひと役買うはず、と田村さんは期待している。

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