「乾物」は、奥深い中国料理の知恵のひとつ。もし、その知恵と技を中国料理以外のシェフが活用したら――。料理の可能性は格段に広がるだろう。中国料理の伝統に正面から向き合い、手間のかかる乾物使いにもこだわる田村亮介さんに、初心者でもわかる乾物使いについて聞いた【第一弾】!
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油と炎を駆使して、さっと香り高いひと皿を仕上げる。中国料理と聞いて、まずイメージするのは、そんなスピード感溢れる料理人の姿だろう。田村さん自身、「強火使いなら中国料理が世界一」と胸を張る。しかし、中国料理の「世界一」はそれだけではない。たとえば他のジャンルにはない乾物の種類。その多さと使い方の多様性には目を見張る。「麻布長 江香福筵」にも、干しエビやシイタケといった馴染みのある乾物から、高級食材のアワビやナマコ、アキレスケンやウキブクロまで40種以上の乾物がストックされ、20種ほどは常に戻した状態で出番を待っている。
乾物は「水に浸けて戻す」のが一般的。しかし、中国料理の戻し方は実に多彩で、「乾物」の戻し方に潜む貪欲な旨さの追求には驚かされる。水戻しのあとで蒸す。肉や野菜など他の食材の旨味を煮含めて戻す。熱した油の中に水を入れて〝爆発〞させて戻す、などなど。
中国料理はフランス料理と同じように体系化されているにもかかわらず、こうした調理技法の中には、埋もれてしまっていたり、現在は使われなくなってしまっていたりするものが少なくない。その理由を田村さんはこう説明する。
「調理技法が多いにもかかわらず、それをマスターするのに、昔は先輩の技を見て盗む以外になかったこと。また、政治的な理由などで、他の国の料理人を受け入れる体制が整わない時代が続いたことも大きな要因でしょう」
まるでフランス料理のようなひと皿。主食材は豚のアキレスケン。基本を守りながらもより繊細に、驚きのある皿を――。いい意味で変わりつつある中国料理だから学ぶ価値がある。