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知れば知るほど奥深い「乾物」使いの知恵と技!第一弾【乾物の3つの効果】


もっとも応用範囲が広く使える「乾物」

しかし21世紀に入ると、少数ながら日本人の中にも本場中国で学ぼうとする料理人が登場。中国料理のベールが少しずつはがされていった。今では、その秘技を自らの料理に取り入れている西洋料理のシェフも少なくない。中国式スープの取り方や乾物の戻し方、また酸と糖の反応を利用して表面をパリパリに仕上げた脆皮鶏(ツイピーチー)の技法について、田村さんが他ジャンルのシェフたちから質問される機会も増えた。中でも、もっとも応用範囲が広いのは乾物使い、と田村さんは言う。

「中国には昔から、太陽の恵みをエネルギーに変えて体内に取り入れるという思想がある。だから乾物へのこだわりも相当なものなんです」
乾物は主食材としてはもちろん、和え物や炒め物、煮込み料理、さらにはデザートにまで使える。無味無臭なので、「何かはわからないが面白い食感」とゲストを楽しませる〝隠し食感〞にできる乾物もある。

ただし、使いこなすにはテクニックも時間も手間もかかる。完全に戻すまでに週間もかかる〝難物〞も少なくない。それでも、田村さんが乾物にこだわるのはなぜなのか――。「最近は中国料理人の乾物離れが進んでいるように思います。でも、食事は楽しくないといけないし、驚きや感動も大切。乾物にはその力がある。受け継がれてきた知恵と技術も絶やしてはいけないと思いますし」
中国料理の枠を越えて高く評価される田村さんの料理。その旨さの秘密は日々の努力と情熱、そして何より伝統への敬意にあるといえよう。

ホタテは乾物にすると生のホタテ以上の旨味を出す。それは、シイタケも干しエビも同様。
改めて乾物のパワーはスゴイ!

「乾物」の3つの効果

【乾物の効果-1】旨味や香りを強調する

干しアワビ

乾物には旨味や香りの強い食材が多く、干しアワビはその代表格。高級中華には欠かせない食材だが、これを赤ワインで煮れば、繊細なフランス料理にもなる。

フカヒレ 尾ビレ
フカヒレ 胸ビレ

フカヒレは、尾ビレ(上)のほか、胸ビレ(下)なども旨味や香りが強いので、スープ仕立てなどにして、それを堪能する。尾ビレはツルっとした食感なのに対して、胸ビレのほうはプリプリとした歯触りが特長。

【乾物の効果-2】食感の可能性を広げる

スルメイカ

田村さんの店でもよく使うスルメイカは、4%のかん水(アルカリ塩水溶液)で6、7時間戻すとプリプリの食感になる。

ワラビ春雨

春雨はコリコリとした食感と、細く透き通った形状が特徴だが、このワラビ春雨のようにアレンジされた乾物もある。普通の春雨同様食感がよいうえに、ワラビの香りが滋味深い。

ファーツァイ(髪菜)

細くて黒い髪の毛のようなファーツァイ(髪菜)。モモの木の樹液と同じように、主食材には使われないが、スープや煮込み料理などに用いると変化に富んだ食感が演出できる。

モモの木の樹液

ゼリーのようで、琥珀色をしたモモの木の樹液は、中国料理ならではの食材だが、無味無臭で食感を楽しむためのもの。他のジャンルのスープ料理やデザートにも使えそうだ。

【乾物の効果-3】デザートにも活かせる

クコの実

杏仁豆腐などに用いられるクコの実のほか、ハスの実、モモの木の樹液、ナツメ、サイカチの実なども効果的に用いるとひと味違うデザートになる。

白キクラゲ

白キクラゲをデザートに使う場合は、砂糖などと一緒に加熱してトロトロの食感に仕上げる。圧力鍋を使って、長時間蒸す手間を省くのもひとつの方法。

田村亮介/Ryosuke Tamura
1977年、東京生まれ。
中国料理店に育ち、幼い頃から料理に興味を持つ。調理専門学校卒業後、数店での修業を経て四川料理「麻布長江」へ。10年ほど長坂松夫氏に師事し、2009年、「麻布長江 香福筵」のオーナーシェフに。

上村久留美=取材、文 依田佳子=撮影

本記事は雑誌料理王国第273号(2017年5月号)の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第273号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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