「イタリア料理は、基本的に地産地消。昔から土地に根を張った料理です。ただ、『昔ながら』を踏襲するだけでは、今まで残っていない。郷土に伝わる伝統料理は、小さな進化の積み重ねの賜物だと思っています」と濱﨑龍一さんは言う。
同じ郷土料理でも、家庭によって使う素材も味も微妙に異なる。科学や物流などの発達で新たな味と出会えば、人々の好みも変わる。そのなかで、時代に合った変化を重ねながら、最大公約数としての伝統料理が、時代を超えて受け継がれているというわけだ。
今回の「リゾットアッラピロタ」は、ロンバルディア州南部のマントヴァ地方でよく作られる料理で、サラメッレ(マントヴァ地方の生サラミ)を混ぜ込んだ料理。基本のスパイスは黒コショウだ。
「ただ私の場合は、豚肉はサラメッレにせずに、バラ肉、ロース、モモ肉などを小さく切ってそのまま入れる。スパイスも、黒コショウのほかに白コショウ、クローブ、シナモン、フェンネルシードを入れて少しスパイシーに仕上げています。でも、ベースとなる食材は同じなので、これも『リゾットアッラピロタ』なんです。そこが料理人にとっては面白い」基本さえ押させておけば、あとは作り手の感性次第。その自由度の高さこそが、伝統料理の面白さかもしれない。小さな進化の積み重ねを可能にする懐の深さこそが、伝統料理たるゆえんなのだろう。濱﨑さんは、そんな伝統料理とリストランテ濱﨑の姿を重ねる。
「リストランテ濱﨑を開いて12年。その間に培ってきた『らしさ』には、こだわっていきたい。劇的に変わることはないけれど、小さな変化を重ねながら、お客様においしい料理と居心地のいい空間を提供していきたいと思っています」
伝統料理のごとく、「リストランテ濱﨑」もまた、人知れず変化を繰り返しながら、その味とたたずまいを守り続けている。
小さく切った豚のバラ肉、ロース、モモ肉などにスパイス類を混ぜ、ワインに漬ける。
チリメンキャベツもロンバルディア州の特産物。日本でも栽培しており、濱﨑さんは国産とイタリア産を状態によって使い分ける。
黒コショウ、白コショウ、クローブ、シナモン、フェンネルシードをミルにかけたスパイスミックス。肉の味付けに使う。
ロンバルディア州のマントヴァ地方でよく作られている、サラメッレを混ぜ込んだ料理。ピロタとは脱穀人の意味で、いわばこれは、「脱穀人風リゾット」。昔から米の産地として知られるマントヴァ地方の料理らしいネーミングである。
材料(2 ~3人分)
ニンニク(スライスまたは粗みじん)…1片/赤ワイン…大さじ3 /塩…適量/スパイス(ミックス/黒コショウ、白コショウは必須、クローブ、シナモン、フェンネルシードなどはお好みで。すべて合わせてミルで挽くこと)…適量/豚肉(粗めにカットしたバラ肉、肩ロース、もも肉など)…250 ~300g /米…120g /ちりめんキャベツ…2 ~3枚/パルミジャーノチーズ…大さじ2と1/2 ~ 1/3/ラデッキョ(タルティーボ)、イタリアンパセリ…各適量
作り方
1.ニンニクと赤ワインを合わせ、ガーゼで濾してボウルに入れる。
2.ボウルに豚肉を入れ、味を見ながら塩とスパイス2~3つまみ加える。できれば冷蔵庫で一晩寝かせる。
3.鍋にたっぷりの水と塩(分量外)を入れて沸騰させ、米は洗わずに11分ほど茹でる。ざるにあけてよく洗い、水気をしっかり切る。
4.ちりめんキャベツは細切りにし、フライパンで焼きつける(少量のオリーブオイルで炒めてもよい)。
5.フライパンにオイルをひき、2を炒める。
6.5をざるに一度上げ、脂分を切る。
7.6をフライパンに戻し、3を入れて炒める。パルミジャーノチーズを加えてさらに炒め、ラデッキョとイタリアンパセリを加える。
8.7を皿に盛り、4を上に飾る。
チ ーズの香ばしさを出すために焦がす
細かく切った豚肉と茹でて水分をよく切った米をフライパンで炒め、パルミジャーノチーズを加えてさらに炒める。このとき、チーズをわざと焦がして香ばしさを出す。
水分を飛ばしながら焦げ目だけをつける
少量のエクストラヴァージンオリーブオイルをひいたフライパンに細切りのチリメンキャベツを入れ、焦げ目をつけて香ばしさを出すのが濱﨑流。チリメンキャベツはしんなりさせない。
ロイヤルコペンハーゲンの上絵付け部門で「フローラ・ダニカ」シリーズを手がけた、ヨーロピアン上絵付けの第一人者、石井逸郎氏の手描きの絵皿を使用している。愛らしい季節の草木や鳥などが、料理に花を添えると同時に、お客様の会話を弾ませ、目と心を和ませる。
鹿児島県出身。1988年に渡伊。ロンバルディア州マントヴァの「ダル・ペスカトーレ」で修業し、1989年に帰国。「リストランテ山崎」でシェフを務めた後、2001年に『リストランテ濱﨑』を開く。
リストランテ濱﨑
Ristorante Hamasaki
東京都港区南青山4-11-13
☎03-5772-8520
● 12:00~14:00LO(木~土のみ)
18:00~21:30LO
● 日休
● コース 昼4200円~、夜9450円~
● 28席
山内章子=取材、文 依田佳子、星野泰孝=撮影
本記事は雑誌料理王国225号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は225号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。