イタリアの伝統と最新技術の融合
郷土料理の基本を崩すことなく、現代的な調理法や食材同士の共鳴を大切にしたい。
「イタリアのリストランテでは手打ち麺や手間のかかる包み物もずいぶん作りました」こう語る秋田シェフは、イタリア修業の経験を活かして現代版カネデルリを披露してくれた。カネデルリとは、オーストリアやドイツの文化的影響が色濃く見られるイタリア北部の郷土料理。 硬くなったパンに牛乳をしみ込ませ、ホウレンソウ、卵、スペック(燻製した生ハム)などを混ぜ合わせてボール状にしたパンのパスタだ。保存食として16世紀頃から親しまれてきたという。
「郷土料理に科学的アプローチを取り入れて、現代の味にしようと考えました」カネデルリ作りの基本は守りつつ、合わせるサクラマスの火入れは低温調理で「生」と「焼き」の中間の複雑な食感に仕上げる。添えるソースはエスプーマで白い泡に。孟宗筍、マッシュルーム、タマネギ、ベーコン、スペックやコンソメなど、さまざまな食材の風味を忍ばせるのだ。見た目も現代的に小さめのボール状に成形した。今回、一番悩んだのはソースだった。
「煮詰めた食材を液体ごとミキサーで回して何度か試したのですが、どうしても重いソースになってしまう。カネデルリを今、日本で表現するにはソースがカギだと思ったので、そこは試行錯誤しました」中身を濾してからエスプーマを用いることで、軽くて風味のある泡のソースがようやく完成した。現代の技術を取り入れて郷土料理を再構築する。イタリアの伝統を重んじ、敬意を忘れないシェフだからこそ、安定感のある新しさがそこにあった。
材料(1人前)
カネデルリ(15g)……8個
バター風味のディルオイル(E.V.オリーブ油とバター、塩、ディルの葉を80℃ぐらいで加熱。ミキサーにかけてからキッチンペーパーで濾す)……15ml
43℃で調理したサクラマス……25g
孟宗筍の風味をのせたクレマの泡……適量
●カネデルリ(作りやすい分量)
自家製クルミパン……100g
牛乳……90ml
アマドコロ……130g
アイコ……120g
全卵……1個
薄力粉……40g
グラーナ・パダーノ……25g
ナツメグ……適量
塩、コショウ……少量
●孟宗筍の風味をのせたクレマの泡(作りやすい分量)
孟宗筍……40g
タマネギ……100g
マッシュルーム……30g
ベーコン……15g
スペック……100g
ニンニク……3g
牛乳……130ml
生クリーム……260ml
白ワイン……25ml
コンソメ……40ml
孟宗筍のゆで汁……70ml
E.V.オリーブ油……15ml
タイム……2枝
ホットエスプーマの粉……19g
塩…少々
作り方
●カネデルリを作る。
1.クルミパンをざく切りにして一旦乾かし、牛乳をしみこませて上から重しをのせて冷蔵庫で一晩おく。
2.アイコは塩ゆでし、アマドコロは焦げ目がつくまでフライパンで煎る。冷めたら、食感が残る程度の粗みじんに切る。
3.全卵に、グラーナ・パダーノ、ナツメグ、塩、コショウを加えて混ぜる。
4.2と3、つぶしてほぐした1を混ぜ、薄力粉を加えて生地を作る。15gのポール状に成形する。
●孟宗筍の風味をのせたクレマの泡を作る。
1.フライパンにピュアオイルとベーコンを入れて、ベーコンが色づくまで中火で炒める。
2.1にニンニク、タマネギを入れて塩をふり、タマネギがしんなりするまで炒める。
3.2に白ワインを入れて酸味がなくなるまで煮詰めたら孟宗筍の煮汁を加えて、沸騰後、孟宗筍とマッシュルームを入れる。
4.3にコンソメ、牛乳、生クリームを加えて少し煮詰めたら、冷ましておく。
5.4にスライスしたスペックとタイムを入れて真空用袋に流し込む。真空にしたら70℃のウォータパスに入れて3時間じっくりスペックの風味をつける。
6.5の中身を濾してホットエスプーマの粉を加えてミキサーに。これをサイフォンに入れてガスをセットする。
7.鍋に60℃くらいのお湯をはってサイフォンを温める。
●山菜を練りこんだカネデルリを仕上げる。
1.皿の中央に常温のディルオイルを注ぐ。
2.サクラマスを適当な大きさにカットして、1の上にのせる。
3.適量の塩を入れた熱湯でカネデルリをゆでて皿に盛る。
4.温めたエスプーマを、サクラマスを覆うようにフォームする。
ヤマガタ サンダンデロ
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text 上村久留実 photo 依田佳子
本記事は雑誌料理王国2020年8・9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年8・9月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。