予約の取れない3つの人気店が持つ哲学


いい部分より悪い部分に気付ける客観的視点が話題性に先立つ支持を生む ペレグリーノ 高橋隼人さん

ペレグリーノ 高橋隼人さん
Hayato Takahashi
1978年新潟県生まれ。ワーキングホリデーで滞在したニュージーランドで料理に目覚め、都内や徳島県のイタリア料理店を経て28歳で渡伊。エミリア=ロマーニャ州の家族経営のリストランテで経験を積み帰国。翌年西麻布に「ペレグリーノ」オープン。2015年恵比寿へ移転。

おいしさと人気を裏打ちするゲストのための配慮


 住宅街の1軒家の1階部分に、キッチンとたった6つの客席。イタリアンの名手として知られる高橋隼人さんが、理想的な空間を追い求めて作ってきたのがこの場所だ。基本の営業日は週4日間だが、ほとんどはリピーターの予約で埋まり、新規予約受付は月に1~2日のみ。しかし「予約が取れないというと店側がお客さまを選んでいるようにみえますが、そうではありません。ただ6席しかない店で、ただ以前より来たいといってくれる人が増えただけ」と高橋さんは話す。店の代名詞である生ハムは、希少なものを目の前で惜しみなく削り、おいしい部分だけをたっぷりと。その他にも目の前で伸ばすパスタなど、エミリア│ロマーニャ州の郷土料理の数々を一番おいしい状態で提供するのがこの店のスタイルだ。現在はワインペアリングやサービス料など、すべて込みで3万5000円からという価格設定だが、訪れた人々は口々に料理のおいしさとコストパフォーマンスを称賛する。だが、この店の最大の魅力はその実直さ、誠実さにある。たとえば、高橋さんは食材の火入れを最小限の火力で行う。食材の風味を損なわないためというのは後付けの理由で、実は狭い空間に集まったゲストが少しでも過ごしやすいようにという配慮からだ。

「自分の好きな食材を好きなように出すことだけがいいとは思いません。必ずお客さまを一番に考えたい」

ペレグリーノ 高橋隼人さん 「ボン・ダ・ボン」の「ペルシュウ」17ヵ月熟成
「ボン・ダ・ボン」の「ペルシュウ」17ヵ月熟成
岐阜のパルマハム職人・多田昌豊さんが手掛ける生ハム「ペルシュウ」は、繊細なレースのように極限まで薄くスライス。口中で溶けるとともに、得も言われぬ豊かな香りと旨みが広がる。炊き立てのご飯に乗せて提供することも。

考えるべきは食べ手のことそのために必要なのは客観性

 つねにゲストの立場を考えるということは、つねに自店を客観視することでもある。この店の厨房には壁にかけられた鍋も調味料の瓶も見当たらない。休日もメンテナンスは欠かさず、磨き上げられた壁やステンレスは移転時とほぼ変わらない姿を保つ。

「ほかの店に食べに行くと、どこもいい店だと思う分、よくない部分が逆に印象に残る。職業柄、料理人は自分がいいと思うことばかり店でやろうとしがちですが、食べ手が嫌なことをしないようにするほうが断然いい。だからいつも、客席から見えるところをいかに汚さないかを考えます」

 客観性を重視するのは食材も同様。以前は産直食材にこだわっていた高橋さんだが、最近は仕入れ方法に変化が。現在は築地へも足繁く通う。「馴染みの生産者さんから仕入れることが評価される風潮もありますが、それだと出来が悪くても付き合いで買うことになりかねない。今の日本の気候では、つねにいいものを生産するほうが難しい。いいと思えない食材を食べるのは、結局お客さまです」

 自分の店以上にゲストを慈しみ、もてなす。人々が再訪を熱望する理由は、そんなところにもあるのだろう。さて、「料理や空間の質を考えたら、もっと機材を充実させたい。数年後には移転したいけれど、出資者がいないから難しくて」と高橋さん。出資など引く手数多なのでは?と聞けば「なれ合いになるのは嫌だから、資金もすべて自分で出したいんです」。どこまでも正直で、潔いのだ。

ペレグリーノ 高橋隼人さん 黒鮑のロースト
黒鮑のロースト
低温で20分ほどボイルした黒鮑を軽く焼き、黒鮑の肝のソースを添えて。ソースの隠し味には、このひと皿とペアリングさせるバルバレスコを加えた。磯とバジルの香りが、さわやかな海風のように鼻孔をくすぐるひと皿。
ペレグリーノ 高橋隼人さん

ペレグリーノ
Pellegrino
東京都渋谷区恵比寿2-3-4
● 19:30~(完全予約制)
● 月、火、木休
● 6席
http://pellegrino.jp/


唐澤理恵=取材、文 林 輝彦=撮影
text by Rie Karasawa photos by Teruhiko Hayashi


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