「ホテル ニューオータニ」で毎回好評の企画、世界で活躍する日本人シェフフェア「THE GASTRONOMY」。2018年に行われた第5弾では、パリを拠点に活躍する若手シェフ3名守江慶智さん、北村啓太さん、渥美創太さんによるコラボレーションが実現した。イベントにかける思いからパリでの近況に至るまで、三者三様の思いを尋ねた。今回は、守江慶智さんインタビューをご紹介します。
渥美創太さんは、守江慶智さんのことを「守江くん」、北村啓太さんのことは「啓太くん」と呼ぶ。
「守江くんは変人。啓太くんはかっこいいです。でかい芯がある。僕のほうが年下だけどフランス歴は長いので、ふたりと知り合ったのはフランスに渡って数年経ってから。守江くんとは、友達の友達として出会いました。家で料理を作って食べようという話になって、彼が友達に連れられて家に来たんです。啓太くんはいつだったかな。覚えていないですね」
そんなふたりの料理を、渥美さんはこれまで何度も口にしてきた。「でも、個々のお店に行って食べるとおいしい料理をバラバラに作ってコースにするのは、食べ手的にはどうなんだろう、これでよかったのかな?って思いました。互いの料理に合わせようとする部分があると、それが熱には変わってこないんじゃないかと思って。今回のイベントではそんな難しさも学びましたね」
今回の帰国は、このイベントのみならず、複数のイベントや取材が目白押しの過密スケジュール。渥美さんは昨年末でパリの「クラウン・バー」を卒業し、いよいよ自店の開店準備をスタート。現在、その動向を世界中のレストラン関係者が固唾を飲んで見守っていることだろう。
「店名は『Maison(メゾン)』です」と渥美さんは切り出す。
「9月2日のオープンを予定しています。場所は11区。ずっと20区あたりで一軒家の物件を探していて、なかなか見つからず途方に暮れていたところに、11区のど真ん中に位置するいい物件がたまたま見つかって。内装は6月に完成する予定です」
渥美さんの好む「あったかい家庭的な雰囲気」を店名にも込めた。「グランメゾンでガストロノミーをやるつもりです。こんなんじゃダメだって言われそうですけど、グランメゾンをやります。そして、働きたいと言ってくれたら誰でも採ります。今決まっているだけでも日本人、韓国人、フランス人、イタリア人、中国人。共通言語はフランス語と英語ですね。技術や経験ではなく、働きたいと希望してくれて自然に集まってきた人たちとやっていくのが一番いいと思うので」
自分の店を持ちたいと本気で考えるようになったのは、「クラウン・バー」のシェフになる前。「ヴィヴァン・ターブル」で初めてシェフという立場を経験するきっかけをくれた当時のオーナー、ピエール・ジャンクー氏による影響が大きいという。
「彼は人の顔色をうかがうようなことは一切せず、自分のセンスだけでやっている。そんな人を見たのは料理界で初めてだったので、こういうやり方もあるなら、自分の店を持ちたいと思えるようになったんです」
そこには当然、パリでなければいけない理由や、渥美さんなりのこだわりもあるのだろうか?
「フランスじゃなきゃいけない、パリじゃなきゃいけないとは全然思っていませんね。自分が生きている場所で料理をやりたいだけ。フランスで修行を始めて、家族もできた。子供も生まれて、友達もいっぱいできて、だからフランスでやる。それが今の自分にとって自然であり、ベストな選択肢だと思えるから」
最後に「海外を拠点に料理人として生きていくために必要な要素とは?」そんな質問をしてみたくなった。渥美さんはこれに対し「大切な要素はひとつでは足りない」と答える。「言葉、センス、柔軟性、強い意志、料理が好きであること、家族。いろんな要素が揃わないと、海外でやっていくのは難しいかもしれない」と。
4月25日から約3カ月間、渥美さんは「Maison」の立ち上げメンバーとともにニューヨークのポップアップレストランの厨房に立っている。チーム・メゾンの快進撃は、すでに始まっているのだ。
田中英代=取材、文 小寺 恵=撮影
本記事は雑誌料理王国第286号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第286号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。