「noma」の空気感を生み出すインテリアと食器


デンマーク・コペンハーゲンの「noma」は、レネ・レゼピ氏が「新しい北欧料理を」と生み出したレストラン。〝世界のベストレストラン50〞で世界一の地位に4度輝いている。
彼の哲学と、地産地消や発酵を生かした料理は一大潮流を生み出し、今ではnoma出身の多くのシェフが世界で活躍している。店は昨年末から休業中だが、6月初旬の再オープンを目指し、新メニューの創作に余念がない。
今回注目するのは、nomaの独自の世界観を作り上げるインテリアや食器の数々だ。

初夏を迎えるnoma。自然を取り入れる工夫がされた建物同様、通常は料理も季節に合わせた食材を使った「シーズン」に分かれる

「noma」がコペンハーゲン中心部の古い倉庫に開業したのは、2003年のこと。2016年に一旦閉店した後、2018年2月に「noma2.0」として、かつての場所から北東に1.5㎞ほど離れた場所に再オープンした。歴史的価値のある17世紀の城壁、それに付随した貯蔵庫を、元の姿を大きく損なわないように改装して発酵ラボやワインセラーとして活用し、さらにダイニングルームなど、用途別に分かれた建物を新設した。それぞれの建物が「季節を感じるため」のガラスの天井でゆるやかにつながる。デンマークの農場をイメージして、田舎の家に招かれたような、リラックス感のある雰囲気が特徴となっている。そんな「nomaらしい」世界観を生み出すのに欠かせないのが、プロのスタイリストの存在だ。コペンハーゲン在住のクリスティーン・ルドルフ氏はレゼピ夫妻の長年の友人でもあり、オーストラリアのメルボルンとニューヨークで活躍した後、故郷のデンマークに腰を落ち着けた。2005年からnomaのスタイリングを手掛け、レゼピ夫妻が出版した3冊の本や、移転後の内装を手掛けたのみならず、食器は全てルドルフ氏が選んでいる。nomaは一年をシーフード、野菜、森とゲームミートの3つの季節に分けて料理を大きく変えるが、ルドルフ氏はそれに応じて、北欧を中心とする5つの陶芸スタジオから6000以上の陶器類を選んできたという。

夏の時期に提供する「ベジタブル・シーズン」の一皿

特に多くnomaで使われているのが、ノルウェーのアネット・クログスタッド氏の作品で、特徴は独自の釉薬の組み合わせで自然を表現すること。作品には「海の泡」や「霧深い森」、「苔」などの名前がつけられ、どれも季節がどのように自然の色彩や香り、手触り感に影響を与えるかについて熟考を重ねた上で生み出されたものばかりだ。また、ワイングラス、カラフェ、お茶やコーヒー用などのグラス類は、デンマークのガラスメーカー、ニナ・ノーガードと、nomaのヘッドソムリエ、マッズ・クレッペ氏が共同開発したオリジナルだ。コーヒーカップは、スウェーデンを拠点とするデンマーク人のアーティスト、カトリン・ビンザー・リンジウス氏によるものだが、実はリンジウス氏はnomaでサービススタッフとして働いた経歴を持つ。nomaをよく知る人々が、それぞれの視点からの世界観を共有し、有機的に「空気感」を生み出していく。その空気感は「今」だけでなく、「過去」も含めることで、時間軸の厚みを増す。ナイフはデンマークのナイフメーカー「ミケル・ハンセン」で1本1本手作りされた武骨なものだが、それ以外のカトラリーは、基本的に新しく作られたものではなく、デンマークとスウェーデンのフリーマーケットで購入して来たヴィンテージ。毎日の生活で積み重ねられた歴史を感じる風合いが、どこかノスタルジックな雰囲気と、暮らしのリアリティを醸し出す。

nomaは、「ここでしか食べられない料理」に重点を置き、地元の食材を多用するが、料理のみならず、全てに共通するコンセプトは、「センス・オブ・プレイス(その土地らしさ)」。地元の人々による手作りの温もりや暮らしの手触り感のあるアイテムの数々が、nomaで過ごす食事の時間そのものを「デンマークの文化との出会い」の体験にする。ここで食事をするためだけに地球の裏側から旅して来た人をも満足させるのは、料理、食器、インテリア、つまり、口にするもの、目にするもの、触れるもの全てが、nomaのある北欧・デンマークそのものを体現しているから、と言えるだろう。

休業中でも「nomaが社会にできること」

レネ・レゼピ氏が新たな取り組みを打ち出した。「パンデミック・ヒーローズ」と称し、世界中からインターネットで推薦を募り、コロナ禍で社会貢献をした人々計175人に、再オープンの際、無料で料理とドリンクをふるまう。「近所に食糧を届ける、というシンプルなものから、コロナ病棟で医療従事者として働く、という複雑なものまで、大小を問わず、コミュニティに特別な変化をもたらした個人である事が条件です」とレゼピ氏。まずは、再オープン初日にデンマーク国内から75人を招き、続いて国外からの渡航の条件が整い次第、順次海外のヒーローたちがnomaでの食事を体験できるという。

海に囲まれたデンマーク、初夏は本来なら「シーフード・シーズン」だ

text: Kyoko Nakayama photo: Ditte Isager

本記事は雑誌料理王国2021年6月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2021年6月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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