nomaがハンバーガーショップをオープンした理由


「バーガー・シーズン」を通して見えてきた地元密着型のスタイル

デンマークにも、寒く厳しい冬がやってきた。デンマーク政府の規制を受けてnomaでは、2020年12月9日から2021年1月3日までの休業を決定。1月4日からは10月から始まったゲームミート(狩猟肉)と森のシーズンを継続する。この困難な時代を、稀代のヴィジョナリー、レネ・レゼピ氏はどのように乗り切るのか。日本の飲食業界への、熱いメッセージを受け取った。

難局を乗り切るために、今すべきこと。

 現在、デンマーク政府が、ソーシャル・ディスタンスの観点からレストランの面積あたりの来店者数制限、さらに夜10時までに閉店という規制を打ち出しており、その影響でnoma のゲストは40%減っています。とはいえ、この条件下で、毎日満席で、その99%が地元の人たちです。開店して17年経ちますが、最初の7年間は、nomaは主に地元の人たちに料理を提供する地元のレストランでした。今再びその状態に戻ったわけで、自分の街と再びつながるという感覚は素晴らしいものです。

 この難局を乗り切るには、経済的には、支出を抑えるように計画を作成し、それをしっかりと守ること。同時に、感情や主観に流されずに、分析的に物事を判断し、イノベーションを実行しなくてはいけないと思います。今はこれまで挑戦できなかったことに挑戦すべき瞬間です。どんなことでも可能です。それが、私たちが「バーガー・シーズン」を行なった理由でもありました。楽しくて素晴らしい、経済的な意味でも成功したシーズンで、そのおかげでこのパンデミックを乗り越えられました。人は挑戦することで、自らのモチベーションを保つことができます。ポジティブに、生産性を持ち続けてください。

今こそ、地元の人々のために

 今年は言い尽くせないほどの多様な気持ちが去来した年です。この1年で、7年分の経験をしたのではないか、と思うほどです。ここデンマークの人々の気持ちも変わり続けています。ロックダウン後の夏は、皆が非常に幸せな気持ちで満たされていました。しかし、冬の始まりの今は、人々は心配し、不安で、疲れています。だからこそ、今一番大切なことは、お互いをしっかりとケアし続け、思いやりを示すこと。レストランでの仕事においては、最近のイノベーションを見せることよりも、人の気持ちを明るくするものを提供することだと思います。

nomaでも、2月中旬からスタートする新しいシーズンでは、多かれ少なかれ、デンマークの皆にとって手の届く価格で、もっとシンプルでベーシックな料理を提供しようと考えています。まだ細かい部分は決まっていませんが、コペンハーゲンの厳しく、寒く、暗い冬を、命に満ち溢れたものに変え、人々が家を出てnomaを訪れる機会を提供できるようにできればと思っています。

「誰もが参加できる」新店の立ち上げ

 「バーガー・シーズン」を通して、誰もが手の届く何かを料理する喜びを見出しました。nomaを開店して17年経ちますが、街丸ごと、と言えるくらい大勢の人々が入り口に並んでいるのを見て、とても満たされた気持ちになりました。とても誇りに思いましたし、仕事上でこれまで経験したことのない新しいタイプの喜びを見出しました。そこで、最高の料理人が調理して最高のサービスで提供し、誰もを歓迎する場所を作りたいと思ったのです。ハンバーガー店を作ろうと話がまとまるまでに、時間はかかりませんでした。最高のハンバーガーと、季節の料理、夏には軸付きのとうもろこし、冬の間はポテトサラダ、春には新鮮な野菜サラダ、というようなサイドディッシュ。それが形になったのが、2020年12月3日にオープンした「POPL」です。

日本のシェフたちへ

 チームはあなたに頼り、激励と、一種の「着実な道のり」を示してほしいと思っています。多くの人がすでに非常にストレスの溜まる環境にいて、さらに多くのストレスと向き合わなくてはならない時代です。ですから、自分のケアも大切です。私は身体のトレーニングをしたり、瞑想、読書などでストレスを解消しています。日本の皆さん、どうぞお互いを助け合ってください。コミュニティがしっかりと結束し、お互いを助け合えば、乗り切れます。助けを求めることを躊躇しないでください。

nomaの新しいハンバーガーショップ「POPL」開店

 noma のカジュアルな姉妹店としてスタートした108 がコロナ禍による海外からのゲストの減少を受けて9 月末で閉店。より地元客に特化した形で再スタートを模索していたが、ついに12 月3 日にハンバーガーと気軽なサイドディッシュが楽しめる店「POPL」に生まれ変わった。ナチュラルワインとカクテル、アイスクリームなども提供し、家族や友人と気軽に楽しめる店となった。店名はラテン語でコミュニティを表す「populus」から来ているが、これは同時に「ポプラの木」の意味も含め、自然への尊敬を表しているという。

 バーガーのパティには、デンマーク西海岸にあるワッデン海自然公園のそばの3 つの牧場で、放し飼いで育ったオーガニック・ビーが使われ、ベジタリアンバーガーには、 noma の発酵ラボで2 日間かけて手作りされているキヌアのパティが使われている。メニューはチーズバーガー、ハンバーガー、ベジタリアンバーガー、ヴィーガンバーガー(各145 クローネ)に加え、フライドポテトと野菜スティックを加えたキッズメニュー(150 クローネ)も登場。レインボーアイスクリーム」など、子ども受けのするメニューも加え、家族で気軽に楽しめる場所にしたいという思いを込めた。バーガー類は110 クローネで持ち帰りもできる。


text 仲山今日子 photo Ditte Isager

本記事は雑誌料理王国2021年2月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2021年2月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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