フードロス削減アプリ「TABETE」の活用で、この2年のフードロス削減量はなんと2トン! 俺の(株)専務執行役員 神木亮さんに伺う


賞味期限や営業時間などの理由で破棄せざるを得ない料理や食品を出品し、登録ユーザーの消費につなぐ「フードシェアリングサービス」が注目を集めています。今回は、このアプリの先駆的存在である 「TABETE」の活用によって、コロナ禍のフードロスを大幅に防いだ、俺の株式会社の取り組みを伺います。

「日々、1品1品の料理がロスになってしまうときに破棄してしまのか、必要な方に引き取っていただくのか。フードロスを意識すると様々な問題が見えてきます。惣菜を扱うのは初めてでしたが、TABETEを活用したことで、原価回収が可能になってきました。中食店を営む方々に、一度試していただけたら」と話すのは、俺の(株)専務執行役員で、料理人でもある神木亮さん。
コロナ禍に、2階がレストラン、1階がデリカテッセンという形態でオープンした、銀座歌舞伎座前の店舗では、開店初日から「TABETE」を導入。2年間で、惣菜1品500グラムの換算で約5400食出品し、TABETEの利用によって2700キロ分、つまり、2.7トンの料理を廃棄せずに済んだというから驚きです。

「コロナ以降もデリカテッセンの需要は大きいです。TABETEの活用によって原価回収が可能になり、フードロスの不安も回避されてきていることから、より使い勝手の良い店舗を目指して、認知度の高い『俺のフレンチ・イタリアン 銀座歌舞伎座前』としてリニューアルに踏み切ることができました」
もともとは中食専門だったこともあり、惣菜類を扱うことで当初の不安材料となっていたのは、フードロスの部分だったといいます。

「外食店舗の場合は、余った材料は二次加工したり賄いに活用するなど、日々の工夫でロスを防げていましたので、特に頭を悩ませたことはなかった」と神木さん。では、中食と外食の違いはどのあたりにあるのでしょう?
「日本には、商品の陳列を絶やさないことが顧客の販売意欲に結びつくという不思議な現象があって。ロス率が予算に組み込まれているケースも多い。欧米ではないことですね」
ヨーロッパで長く働いた経験をもつ神木さんには、特にこういった違いが気になったそう。そんな最中に出会ったのが「TABETE」でした。

― どのようなしくみなのでしょう

TABETEは、登録店舗とレスキュー隊との相互関係で成り立っているアプリです。登録するのはうちのような店舗。対して、状況に応じて店舗から出品される商品を引き受けてくれるのが、顧客、すなわち「レスキュー隊のみなさんです。

TABETEの画面はとてもシンプル。(提供・Co-cooking)

―レスキュー隊?

惣菜店、パン店、製菓店、カフェ、レストラン、ホテルといった登録事業者が、消費期限の迫った食品があると、出品時間帯や、立地による人流などを考慮して出品します。
出品があると、レスキュー隊のスマートフォンに通知がきて、必要に応じて購入できます。現在地に近い店舗は地図上で検索でき、お気に入りに設定した店舗から、出品通知を受け取れるよう設定することもできます。スマホで即時決済でき、受け取りの時間帯も、都合に合わせて設定可能。1件依頼に応えると、フードロス回避量、すなわちレスキュー量が数値化され、データも蓄積されていくので、日々、フードロスへの貢献度が実感できるんです。

―登録店は、全国で2500店舗以上もあるんですね。業態は中食にとどまらず、ホテル、スーパーなど多岐にわたり、名だたる老舗店舗も続々みられます。

特に、人流の増える時間の予測が立ちやすいオフィス街や劇場の周りではなく、天候によって売り上げが左右されることの多い場所では、都市型の日常フードロス解決にはうってつけだと実感します。

―2.7トンの料理を廃棄せずに済んだとのことですが、金額設定は?

当初は出品商品の上限も1000円ほどでしたが、現在では上限がかなり上がって、ホテルなどでも使用されています。価格は店舗で決められるのですが、当該店舗の場合は1品500円〜700円の間で詰め合わせています。これによって少なくとも原価回収はでき、損もしていませんし、商品の価値も落としていません。この3点に重きをおいています。

―導入のきっかけは?

日経MJでアプリの開発者の方の記事を拝見したことでした。早速アポイントをとって話を伺い、まずはレスキュー隊になってみました。うちは、「高級食材を使った料理を、多くの方に味わって欲しい。食を通じていろいろな方に幸せになってほしい」という共通コンセプトで進めてきた形態でしたので、店の料理をテイクアウトやデリバリー用にするという考えはありませんでした。ですが、長引くコロナで外食の機会が減る世の中で、私たちの料理をご家庭で味わっていただけたらという思いになって。

―開店初日から導入されたそうですね

オープン初日のことです。「この分で行くとローストビーフ余りそうだから試しに出品してみようか」と、10〜15食出してみたところ、10分程度で売り切れました。店頭で待っていると、「オープンおめでとうございます。助けに来ました!」とレスキューの方が見えて、初日はフードロスが出ませんでした。
当時、店頭対応だけでなく、ウーバーイーツ、自社デリバリー、出前関係のタブレットがいくつもあり、さらにTABETEの導入。店舗支配人に反対されながらのスタートでしたが、考え方も徐々に変化していきました。スタッフが、実績や経験から出品数を決めていますね。

お店の1階はデリで2階はレストランのキッチンとつながっていますので、2階で調理したものを1階に分けて販売しているものもあります。ただ、1度陳列してしまったもの、例えば100gずつパックして陳列したサラダのふたをあけて二次加工を行うのは難しいですので、TABETEの利用でロスも損益も減ったことは何よりです。スタッフが「料理人の作った料理を売り切れるようにしよう。廃棄しないようにしよう」という意識を持てたことも最大の功績かもしれません。

出品例。無駄を減らして売り上げを増やすことで経済合理性を担保。持続可能な経済を見据えて、食の心地よい売り方買い方を応援するサービスと言えそうだ。(提供:Co-cooking)

―外食と中食では、食品ロスの考え方にどのような違いがあるのでしょう

レストランでは、予約数を確認したり、賄いにしたり、二次加工するなどして、ほとんどロスのない体制でやってきました。想定していた数に注文が届かないことがあっても、それが廃棄という考えにはつながらない。一方、テイクアウト事業を調べていくうちに、ロスが当たり前としてとらえられていることを知りました。

―なぜでしょう?

陳列数がある程度ないと購買意欲に繋がらないという、悩ましい実態があるためです。レストラン料理の場合、最後の1皿はありがたく思われるのですが、デリの場合は「これ、最後の一個?大丈夫?」と真逆の反応になることも多いためです。
実は、中食形態とは異なりますが、数年前から高級食パンベーカリーを出店していまして、廃棄については問題を抱えていました。高級食パンの場合は「ああ、最後の一本が買えた、よかった!」という反応が多いのに対して、目的なくぶらりと来店されて1つ2つしかショーケースにないと、「残り物かな?」となる。「残っていて嬉しい1個なのか、たくさん残っている1個だから嬉しいのか」というのは本当に難しいのです。そもそも日本の食品販売店舗は、食品ロスを前提としているところが多いですし、目標廃棄率もあります。顧客も品切れに厳しいという側面をもっていますしね。

―売り上げ最大化と食品ロス最小化の関係性について

売り上げを取るのか、ロスを減らすのか、どちらを取るかは大きな課題です。
百貨店に出店させていただいたことがあるのですが、どこのブースも、ある程度陳列していないと売れないので陳列を増やし、結果、大量に廃棄することになる。こういったことは日本以外では考えられない。惣菜やデリカテッセンの業態のロス率は、調査した際には7〜8%もあり、最初から予算に組み込んである。レストランでも減価率の考え方はありますが、料理人が1から食材を調理して加工していますので、思いも手間もかかっています。当たり前のように「これってロスだよね」「売れ残ったから廃棄しよう」といった考えに至ることは、会社にも私自身にもあり得ません。

― TABETEの活用は現在は定番化した部分があるのでしょうか?

3年目になって、天候や時期、時間帯による人流も読めるようになってきました。時間帯による出品数とレスキュー率の経験則も積み重ねてきていますので、レスキュー隊のメリットも含めて運用できている感覚があります。なんとかフードロスを無くしたいという思いを持ってくださっている人が多いですし、それも店舗スタッフのモチベーションに繋がっていると思いますね。安くなって嬉しい方もいらっしゃると思いますが、本質を理解されている方も多いかと思います。

―顧客のマインドの変化は?

アプリの認知がじわじわと高まっていることも大きいと思います。歌舞伎座店舗の売上客数自体は伸びていて、みんな上手にお金を使うようになってきていることを実感します。コロナ渦前までの外食の楽しみを知っていたからこその、おうちでの食事の時間の大切さを実感されている。「食材は良いものを、食べる場所はおうち」という消費者のマインドの変化でしょうか。
もしかしたら、うちが外食専門でそれまでロスがなかったからこそ、ロスのあり方に違和感を抱いたのかもしれないですね。私自身が料理を作る立場でもあり、生産者を訪れる機会も多いですから、作ったものを廃棄するのを受け入れられないことが大きい。このあたりは、個人店舗であれば経営者次第かも知れませんが、企業として取り組んでいる部分が、何かの参考になればとも思います。料理の後と前には必ず人がいるということ、生産者も運搬してくださる方も、そして食べてくださる方もいるということでしょうか。

―最後に、フードロスにつながる SDGsの部分などをお聞かせください。

ヴィーガン料理や脱プラスチックの導入は当初行っていましたが、結局はプラスチックの方が安価でもあり、オペレーションが楽だとか、お客さまがプラスチックのストローやカトラリーを欲しがるなど、お店の損益との狭間で悩みました。当初の紙の容器が、いつしかプラ仕様になっていったり、まだまだ生肉よりも、ヴィーガンの大豆ミートの方が原価を圧迫するとか。企業としても店舗としてもSDGsは向き合うことが難しいものでしたが、フードロスに関してはTABETEのおかげで成果が続いています。素晴らしいシステムと数字の可視化、ユーザーの意識のマッチングによって、継続できているのは大きな成果かと思います。理想だけではなく商売として成り立たせるのは大変なこと。数字を共有できているところが大きいですね。

●TABETE(Co-cooking)
https://tabete.me

●俺のフレンチ・イタリアン 銀座歌舞伎座前
https://www.oreno.co.jp/restaurant/grandmarket_kabukizamae

取材・文/吉田佳代

東京生まれ、立教大学卒業。出版社勤務後に独立。食からつながる文化や暮らしまわりを主に扱う。食生活ジャーナリストの会(JFJ)会員、日本紅茶協会認定ティーインストラクター。

関連記事


SNSでフォローする