飲食店の人手不足は本当にロボットで解決?フードテクノロジーの現在と未来が体験できる、「フードテックWeek東京」


先日行われた「フードテックWeek東京」。開催3年目の今回からは、個人飲食店に向けた「スマートレストランEXPO」もスタートしました。海外からの商談ツアーやiPadを通じた遠隔交渉といった新形態も多く見られました。次回の開催は2023年3月の大阪です。

食堂で大活躍していた配膳ロボット

幕張で開催された「フードテックWeek東京」に参加してきました。フードテクノロジーと聞くと、まず食品そのものをイメージしそうですが、実は幅広い捉え方があります。この展示会では、食品だけではなく、食品や料理の製造に辿り着くまでの縁の下の力持ち的な製造工程システムや、飲食に関わる業界の進化の形など、未来の飲食業態を体験できるのが魅力です。
昼時に到着すると、まずカフェブースへ直行。テーブルのバーコードから食事を注文してみました。ニュースなどでは時々見かけるものの、未だ未体験の給仕ロボットに接してみようと思ったのです。カフェスペースはかなり広いのですが、ウエイターロボットくんは私の席をめがけていくつもの曲がり角をスムーズにクリアし、ぴったりと目の前に到着。受け取ると、「ありがとうございます」、そういって戻っていきました。しゃべるんですね。
今回の参加企業は国内外含め400社以上。主催者のRXジャパンではコロナ禍、どのように展示会を企画されてきたのでしょう。事務局の早田まさ希さん、前園雄飛さんに話を伺うことができました。

——コロナ禍とは思えない人出ですね

3年目になりますが、開始時がコロナ禍と重なったのは偶然です。展示会は対面の機会として以前より特別なものに捉えられるようになってきていますね。人と会って実物を見たり、話したり、リアルが重要視されていることを実感します。

——海外の反応はいかがですか?

韓国からは100名ほどのツアーでブースに訪れています。中国は規制で渡航が難しいなか、どうしてもという要望も多く、私たちがiPadを持って会場内をライブ中継しています。リアルタイムで希望されるブースを代わりに訪れ、中国語で翻訳しながら商談をつなげることも行なっています。

——400社も参加されているそうですが、共通テーマはございますか?

さまざまなジャンルの展示会を年間94本開催していますが、共通テーマは、その産業の活性化と社会課題の解決です。飲食店や食品業界は、特に「人手不足」が大きな課題となっていて、解決に向けたヒントにつながる展示会があったら嬉しいという声が多くて。
来年3月には大阪、12月には東京で引き続き開催予定ですが、今後、培養肉、代替肉などといった食品の扱いも含め、サステナブルや食糧不足などの問題も深刻になっていくことが予想されます。そういった問題に対してもテクノロジーで解決したいという軸で関わっていきたいと思っています。

——食事コーナーでは、ロボットが食事を運んできてくれました

ここでの体験がヒントになればと思っています。「人で補っていたものをロボットに置き換えたらどうか? 」「手作業で行っていることをデジタルにしてみたらどうか?」
ロボットやDXを今すぐ取り入れなくても、今後の可能性も含め、多くの選択肢の中から未来の感覚を体験できたり検討するきっかけになればと。

——ピンポイント的な作業を引き受けてくれるようなロボットも多いですね

人手不足に社員の高齢化、重労働。例えば、ハンバーグの載った鉄板プレートの上げ下げなど、ピンポイントで体力を要する労働をカバーできるような配膳ロボットなど、人が関わらない未来が体験できます。現時点では、全無人化で良いのか?部分的に使われるべきか?など、さまざまな考え方がありそうです。社会実用が始まっていくと課題も見えてきます。

——同じ素材を扱う企業でも、リサイクル、デザインなど、重視する技術がさまざまなのも新鮮です

検討する側からすれば、選択肢が多く、新しい発想に気づけた方がいいですので、同じ土俵にさまざまな方が集まることを理想としています。例えば、ロボット化で何が可能になるのかを知りたいと思った際に、老舗企業の最新装置と、新しい企業のAI機器などが同じ空間で体験でき、偏らずに比較できる。そういった部分を大切にしています。
今回から個人飲食店やチェーン店オーナーの人手不足解決に向けた、「スマートレストランエキスポ」も立ち上がりましたが、飲食店オーナーを講師に起用したセミナーの充実も図っています。

——培養肉の開発やシェフのフードロス対策、ハサップ関連などテーマも様々ですね

問題山積ですからね。いろいろな角度からアンケートを取ったり、来場者の方から話を聞くなどしてセミナーのテーマを探っています。ファミリーレストランやフランチャイズといった大規模支援向けから、個人飲食店の配膳ほかソリューション提供への提案まで。セミナーの聴講者には展示会場も巡っていただきたいですし、来場者が会いたいと思うような方に展示をしていただくという意識でいます。

コロナ禍のシェフの実体験をもとにした、フードロスセミナーも。とてもためになる貴重な話ばかり。
コロナ禍のシェフの実体験をもとにした、フードロスセミナーも。とてもためになる貴重な話ばかり。

次回は大阪で3月に開催予定。
興味深かった取り組みの一部をリポートします

●オーダー、売り上げ管理を仕入れにも反映させるシステム

コロナ禍で触れるという行為に気を使うようになり、進化した面も大きい。
一年を通して、顧客のメニュー注文データを蓄積でき、必要な素材や価格、旬の嗜好まで管理できるシステムは、飲食店のサイズを問わず役立つシステム。顧客にサービスするロボットや、メニュー表のタッチパネル、精算機などの導入が、経営側の生産管理にまで結びつくように進化してきている。

●職人技ロボットたち

ピザソース塗りマシーン、ポテトサラダ盛り付け、ラテマシーン、生ビールマシーン、焼き加減を確認調整するマシーンなど、本来職人が担う動作を、ヒト同様に細かい動きが可能なロボットで提案。ポテトサラダをつかんでお皿に乗せる工程を行うロボットは印象的。やわらかいものを決まった量掴む技術は大変難しいそうだ。ピザの生地に一定にクリームを塗るロボットの展示も驚いた。生ビールを自動で注ぐマシーンは、システムが醸造元と繋がっており、IOTで何が使われたのかすぐにわかるという。店頭データがすぐにわかるので、材料と季節の補充や、注ぎ方の量の調整にも役立つ。

ラテアートマシーンの実演
ラテアートマシーンの実演

●植物工場システム

ホテルや大手レストラン向けにローコストと新鮮さを目的とした自家生産野菜工場システムの提案が多く見られた。主にはサラダ野菜などの葉物類。

自社生産で葉物野菜が生産できるシステム
自社生産で葉物野菜が生産できるシステム

●注目食材CBD

大麻の成分を抽出した粉末CBDを活用した飲料や食品は、アルコールを飲まない若者向けにノンアルコールで気分緩和を目指す素材として注目されている。初めて試したが、苦味のある不思議な味わい。中毒性はないとのことで、そこもアルコールと異なる。

水、アルコール、化粧品などさまざまなアイテムに活用。アメリカ西海岸の文化がルーツだそう。
水、アルコール、化粧品などさまざまなアイテムに活用。アメリカ西海岸の文化がルーツだそう。

●持続可能につながるアプローチ

お店の厨房で出る生ゴミをコンポストで発酵させた状態で回収し、さらに発酵させて農業用肥料にし、循環させるシステムは、自治体の導入やホテルなどで導入が進んでいる。個人飲食店向けも検討事項とのこと。また、ペットボトルをリサイクルする機械を40年以上改良し続ける企業なども印象的。

生ゴミを肥料にして循環させるシステム提案。自治体やホテルなどでの導入も増えているそう。
生ゴミを肥料にして循環させるシステム提案。自治体やホテルなどでの導入も増えているそう。
ペットボトルのキャップ、本体、フィルムも資材に。
ペットボトルのキャップ、本体、フィルムも資材に。

●食洗機、仕分けなど

病院や給食センターなど、人材不足が深刻な場所を想定し、大量の食器の仕分けをせずに汚れを落とせるシステムが提案されていた。「学生時代に学食に行くたびに、厨房で働く方々の負担をなんとかしたいと思っていた」という若い男性社員の方の言葉が印象的でした。見学したシステムでは、トレーにのせたまま食器の汚れを浮かして洗い、水切りの際に水分が飛び散ることなく洗浄が終了して、掃除も減り、仕分けの人員の必要もなくなっていた。

左が従来型の食洗。右が今後の提案になる。
左が従来型の食洗。右が今後の提案になる。

text・photo:吉田佳代 

東京生まれ、立教大学卒業。出版社勤務後に独立。食からつながる文化や暮らしまわりを主に扱う。食生活ジャーナリストの会(JFJ)会員、日本紅茶協会認定ティーインストラクター。

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