「築地パラディーゾ」のオーナーシェフ、久野貴之さんは、「新しい店は、いずれ古くなる。でも、昔からその土地にあるような、街に馴染んでいる店は古びない」と考えた。だから、築地の場外市場に昔からあるような店を目指した。
この界隈は、イタリアの港町と雰囲気がよく似ている。人も温かい。「この地でトラットリアを開いたら、街並みと馴染んで、必ずヒットすると確信しました」
それゆえ、30年以上もこの地で店を続けてきた総菜屋の店舗を借りた。タイルの床も大きな冷蔵庫も、あえて総菜屋時代のままにした。「初期投資を抑える意味もあったけれど、それ以上に、この街に馴染んだ店の雰囲気を壊したくないと思ったんです」
スタッフは全員社員。独立し、自分の店を持つスタッフも少なくない。「ここから巣立っていく若い連中を、僕は応援していきたいと思っています」と久野さん。
いつもにぎやかで楽しいトラットリア。料理は豪快で、旨い。「築地でトラットリア」という久野さんの発想はピタリと当たり、いつしか夜はもちろん、ランチさえも予約が取れない店となった。昼時ともなれば、行列ができる。じつはこのランチも、久野さんの戦略のひとつだ。ランチは食材の有効活用と考える人もいるが、久野さんは違う。
「980円のセットメニューのほかに、ウチは昼もアラカルトを出します。ですからワインを飲みながら、ゆっくりアラカルトを楽しんでいくお客様も少なくないんです」
ランチで気に入ってもらえれば、必ず夜につながる。「だから僕らは、昼から全力投球」
朝7時から夜12時まで、仕事はノンストップ。それは、決して楽ではない。だからこそ、7人のスタッフは全員社員にしている。
昼はランチメニューに加え、アラカルトも提供。夜は、アマルフィ風たっぷり生ウニとレモンソースのスパゲッティなどボリュームたっぷりのアラカルトが揃う。
ムール貝やハマグリなどの貝類がたっぷり入った「築地パラディーゾ」のスペシャリテ。「このボリュームで2200円は反則」と同業者から苦笑交じりのクレームが入るほど。「家賃が安い分、料理にお金がかけられるので……」と久野さんは笑う。
材料(1人分)
リングイネ…90g /アサリ…50g(8個)/ムール貝…50g(3個)/ハマグリ50g(2個)/シジミ…50g(10粒)/磯ツブ貝…30g(3粒)/白貝…30g(2個)/ホタテ…1枚/ニンニクのみじん切り…大さじ1 杯/鷹の爪…小さじ1杯/エクストラヴァージンオリーブオイル…大さじ2/チェリートマト…10個/イタリアンパセリ…少々
作り方
1973年東京生まれ。高校卒業後、「駒形どぜう」で2年間修業。その後、イタリアンに転向し、恵比寿の「イル・ボッカローネ」などで働き、5店の新店舗立ち上げに関わった。その経験から「新店オープンは入れ込みすぎると息切れしてしまう。7割ぐらいの力で独立開業するほうがいい」と話す。
山内章子=取材、文 富貴塚悠太=撮影
本記事は雑誌料理王国243号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は243号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。