隔年でイタリア・トリノにて開催されるスローフードの祭典、「テッラ マードレ」。その日本版である第1回「テッラマードレジャパン2023」が9月30日に宮城県にて開催された。トーク、ワークショップ、映画上映会、食品やドリンクの出店も盛況。1日で5600人強の参加者を集めた。
スローフードは1986年にイタリアで生まれた社会活動。工業化・均一化されたファストフードと正反対の食のあり方を掲げ、伝統的食文化やその背景にある自然環境、生産者の持続や再生をめざします。スローガンは「Good, Clean and Fair」(おいしい、きれい、ただしい)。支部は世界160カ国以上にのぼります。
そのスローフード協会が2年に一度、トリノで開催するのが「テッラマードレ(Terra Madre。”母なる大地”という意味)」。世界中から生産者が集まりトークセッションや会議を行う祭典です。
今回開催されたのはその日本版。「テッラマードレ」の名を冠する、日本で初めてのイベントです。宮城県、仙台近郊に位置する富谷(とみや)市にて開催されました。
テッラマードレジャパンのスローガンは「”おいしい”でつながる つくる人、たべる人」。全国から集まった40近くの出店者が加工食品やお酒、ワインを販売したほか、軽食を提供する12のブースも盛況をみせました。
また、スローフードのさまざまな食品や理念をテーマとしたトーク、ワークショップも見どころ。
全部で17のプログラムが開催され、鰹節、ミツバチ、酒のテロワールなどにフォーカスしたワークショップから、「リジェネラティブ(環境再生型)」について語るトーク、スローフードと関わりのある映画の上映会など多彩にラインアップ。来場者が、楽しみながらスローフードを体感する場となりました。
日本スローフード協会の代表理事、渡邉めぐみさんは、「テッラマードレジャパンの開催を本部に話したところ、大歓迎されました。テッラマードレの種を世界中に撒いていくのは素晴らしいことですから」と話します。
「私は過去にイタリアのテッラマードレに参加して、スローフードが一気に自分ごとに感じられるようになりました。日本でも開催すれば、多くの人に同様の経験をしていただけるはず。スローフードをテーマに人が集まり、つながりを育み、議論が生まれるチャンスになると思ったのです」
そして開催にあたり大切にしたのは、敷居をなくすこと。「スローフードに普段から関心を持っている方々はもちろん、その外にいる方々にも興味を持っていただけるようにしたかったのです」
そこで、頭でっかちにならないよう気をつけたと言います。「私はスローフードの活動をするにあたり、常においしいものを真ん中におくことを意識しています。その考えのまま、テッラマードレジャパンでは『楽しい』『おいしい』からはじめよう、と考えました」
かつ、ただのグルメイベントには終わらせない。「ちゃんと気づきを持ってもらうのも大事。その点にも力を入れました」と渡邉さんは話します。
これらの点に関しては、まさに渡邉さんたちの狙い通りの動きが生まれていました。食品やドリンクの出店者、トークの登壇者、ワークショップのナビゲーターと参加者(お客)の交流が活発にくり広げられ、また、出店者や登壇者自身も互いとの交流も楽しんだと言います。
スローフードの思想や実践があふれるリアルな場に身を置くことが、いかに刺激や喜び、手応えにつながるか。そう実感した人も多かったに違いありません。
テッラマードレジャパンの今後ついて、渡邉さんはこう話します。「これからも場所を変えながら隔年で開催する予定です。『次回、2年後の秋に会いましょう!』と言えるのは嬉しいですね。『私たちの地で開催したい』という自治体の方がいらしたら、ぜひ手を挙げてください」。
また、「イタリア本部のテッラマードレは5日間にわたって開催され、規模も今回の日本の何十倍もあります。少しずつでも、そこに近づけるよう進みたいです」との展望も。
そして「先ほども触れましたが、これからはもっとマス、つまりスローフードのことを知らない多くの方々も足を運んでくれるよう、告知や仕掛けにも務めたいと思います」との目標も掲げます。
「スローフードの空気」の中に身を置く体験は、人々の意識を変える力を持っています。多くの人にその体験を提供するテッラマードレジャパン。これからの展開が楽しみです。
日本スローフード協会
https://slowfood-nippon.jp
テッラマードレジャパン
https://www.terramadrejapan.com
取材・文 : 柴田泉 写真提供:日本スローフード協会