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【永久保存版】平成食の記憶VOL2〜平成5年 『料理の鉄人』スタート


 バブル景気の余韻が残る平成5(1993)年。先行きの不安よりも高揚感のほうがまだ勝っていた時代に、これまでになかった"料理エンターテインメント"番組が始まった。『料理の鉄人』だ。

料理人に光を当てた「料理の鉄人」

「僕たちがフジテレビに依頼されたのは、『今までにはなかった料理番組をつくってください』ということだけでした」と小山薫堂さんは25年前を振り返る。
当時の料理番組といえば、『きょうの料理』や『キユーピー3分クッキング』といった、いわゆる料理の作り方やレシピを紹介するものが主流だった。
そこで考え出されたのが、「格闘技の要素などを取り入れた料理人同士の料理対決」だった。当時は、フジテレビの中継番組、F1グランプリが人気だった。「ピット中継のように、料理の対決を実況中継したら面白いよね」などと話しながら、どちらかと言えばノリで考えたような企画だった。
小山さんは、まだ20代。「現実問題として収録は成立するのか」「どうやって採点するのか」「鉄人は誰にするのか」等々、不確定要素は山ほどあった。それでも、上層部は「やる」と決断した。

what’s Heisei 5
1月20日 女優のオードリー・ヘプバーンさん死去
5月15日 Jリーグ開幕
6月 9日 皇太子徳仁親王と小和田雅子さんの結婚の儀
9月 6日 キャスターの逸見政孝さん、がんを告白(この年の12月25日に死去)
10月10日 『料理の鉄人』放送開始
10月28日 日本、イラクに引き分けでW杯出場を逃す 「ドーハの悲劇」

新語・流行語大賞 年間大賞「Jリーグ」
日本アカデミー賞 最優秀作品賞『学校』
ヒット曲 『YAH YAH YAH』CHAGE & ASKA、『負けないで』ZARD、『ロード』THE 虎舞竜
連載開始 『るろうに-明治剣客浪漫譚-』和月伸宏、『浦安鉄筋家族』浜岡賢次
テレビドラマ 『ひとつ屋根の下』、『あすなろ白書』、『振り返れば奴がいる』

 ついに1回目の収録が始まった。そして、驚くべきことが起きた。どこからともなく「カッコイイ」という声が聞こえてきたのだ。
「それまで料理人は、裏方的な存在だったと思います。でも、改めてテレビで料理人が真剣に調理する姿を見て、その所作の美しさに誰もが驚き、カッコイイと感じたんです。もちろん、僕もそのひとりでした」
『料理の鉄人』は、料理人に光を当てた。フランスで修業して帰国し、町場に自分の店を出すシェフが増えてきた現象も追い風となった。
料理人を対決させるなんて、とい否定的な意見もあった。しかし、『料理の鉄人』は超人気番組となり、挑戦を望む料理人は増えていった。
小山さんは『料理の鉄人』を通して学んだことがある。それは「感情移入することで料理の味が変わる」ということだ。「料理人が調理する姿には、その人
の料理観や技術がそのまま映し出されます。『こんなに真剣に考えて、
こんな細部にまで気を配っているんだ』と分かれば、食べるときの料理の味は変わるんです」
山田宏己さん、熊谷喜八さん、石鍋裕さん、三國清三さん、平松宏之さん……。印象に残るシェフは多いが、なかでも強烈だったのは京都𠮷兆 嵐山本店の徳岡邦夫さんだった、と小山さんは振り返る。
出演交渉に行くと、「日本人とは対決したくない。相手がアラン・デュカスなら出演する」と徳岡さんは言ったのだ。鉄人と対決するという番組の主旨からいって無理な話。
「実現しなかったけれど、当時から徳岡さんの目は、世界を向いていたんですね」

料理人がそこまで健全になる必要はないのではないか

料理の鉄人 小山薫堂さん
Kundo Koyama
1964年、熊本県天草市生まれ。放送作家。脚本家。京都造形芸術大学副学長。大学在学中に放送作家としての活動を開始し、『カノッサの屈辱』『料理の鉄人』『東京ワンダーホテル』など斬新な番組を数多く企画・構成。初の映画脚本となる『おくりびと』では、第60回読売文学賞戯曲・シナリオ部門賞、第32回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、第81回米アカデミー賞外国語映画賞を受賞した。くまモンの生みの親でもある。

徳岡さんは「RED U-35」で、新元号下初の審査委員長になる。これも何かの縁だろうか。徳岡さんとは、世界に通用するコンテストにしたい、と話している。
小山さんは、「RED U-35」と出会ったことで、あるはずのなかった人生を歩むきっかけがつかめた、というスターを発掘していきたいのだ。
以前なら、旨いものを作れば「良い料理人」と言われた。今は、例えば社会的な課題にどう向き合うか、までが問われる。小山さんは思う。
「良いシェフは、そこまで『健全』にならなくちゃいけないんだろうか。良いか悪いかの二者択一ではなくて、各々の価値観の違いを理解した上で、しなやかに、おいしい料理を食べさせてほしい」
レストランは、コミュニケーションの場である。だからこそ、レストランはもっと自由に、もっと多様化していってほしい。

RED

山内章子=文 村川壮平衛=撮影

本記事は雑誌料理王国第295号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第295号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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