シェフが選ぶシェフ#8 エスピス 江見常幸さん


若手シェフ部門 同率第3位
江見常幸さん エスピス

江見常幸さんは25歳で渡仏して「オーベルジュ・デュ・ヴューピュイ」のジル・グージョンさんに師事した経歴を持つ。帰国後は神戸のバルのシェフを4年間経験し、16年10月「エスピス」のオープニングシェフに就任したばかりだ。今回のコメントでも、江見さんの新たな舞台に期待を寄せる声は大きかった。
オープンにあたっては半年以上かけてコンセプトや店舗を作り込み、江見さんの理想を可能な限り織り込んだ。テーブルに刺さったナイフ、ハーブウォーターを注ぐと現れるおしぼりなど、随所に遊び心が見える店内は、「楽しませたい」「驚かせたい」という気持ちの現れ。もちろんそれは料理にも表現される。江見さんの料理について投票者からは「繊細さとセンス」を評価する声が上がったが、今回もまさしくセンスあふれるひと皿を作ってくれた。

204人のシェフが選んだワケ!
大町誠さん「フレンチバールレストラン ANTIQUE」(兵庫・神戸市)
彼の新しいステージが楽しみ。

新生のスペシャリテが
挨拶代わりのスターター

メニューに小さく「Çava?」と記された皿が運ばれてくると、そこにはガトーのような白い半球。真っ赤なフランボワーズシートを崩し、やわらかいヤギチーズのムースを割ると、中からはなんとサバのフランボワーズビネガー締めが現れる。色彩の鮮烈さ、食感の面白さ、味のバランスのすべてが完成された皿だ。
4年間アラカルトを経験し、今は「コースの流れを組む難しさ」に直面している。しかし食べて欲しい料理を出せる魅力もある。ブーダンノワールのムースはその代表だ。味は沖縄から届く新鮮な豚の血を使ってより濃厚に。葉巻状に成形して、土を模したパウダーに横たえた。コースに組み込めば敬遠する人もいない。「僕にとって特別な料理なので、強制的に出します(笑)」

Çava?
フランボワーズビネガーで浅く締め、皮目だけを炙った鯖にフランボワーズドレッシングをまとわせる。ルッコラをのせてシェーブルのムースで覆った。フランボワーズシートでパリッとした食感を補い、ガトー仕立てに。

204人のシェフが選んだワケ!
荻堂桂輔さん「アルテシンポジオ」(兵庫・西宮市)
繊細でセンスあふれる料理を作る。

「はじまり」と題されたアミューズ3品は、コースへの期待感を高める役目を持つが、このブーダンノワールのムースは十分にその役目を果たす。これからこの店で過ごす時間が、ワクワク楽しくなるのだ。ランクインについて江見さんは「ありがたいの一言。プレッシャーはありますが、果敢に新しいことに挑戦したいですね」と、襟を正す。
「奇をてらいたいわけではなく、ジル・グージョン氏の『伝統料理を新たに解釈する』考え方を受け継いでいるつもりです。だからセンスの部分を見ていただけたのは本当に嬉しいし、励みになりました」店のテーマは「大地」。店内から料理まで、生命の源を力強く、かつ繊細に表現するのが目標だ。店名は〝らせん〞と〝空間〞からの造語。お子さま連れも大歓迎。サービス料はない。思いを込めた新たなステージを得て、江見さんの挑戦は続く。

はじまり
ブーダンノワールのムースとリンゴのジュレを詰めた葉巻型フィンガーフード。チョコレートやスパイスなどで土を模した。スターターは他に海がテーマの貝料理など3品。

text 藤田アキ photo 三國賢一

本記事は雑誌料理王国2017年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2017年3月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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