もちろん、こうした中国料理の技や知恵は、西洋料理にも応用できる。例えば、肉をフライパンで焼くときも、下味をつけるだけで、上に乗せたソースがからみやすくなる。
「口に入れたときに、ハッとする旨さを感じるはずですよ」
ごま油の代わりにオリーブオイルを使ったり、酢の代わりに柑橘類の酸味を利用することも可能だ。
「素材の旨味をもっと上手に引き出したい」「新たな料理を考えてみたい」などと思っている人は、ぜひ「下味」という中国料理の技を試してみてほしい。そこからまた、新しい発想が生まれるだろう。
「同じ5秒で仕上げる、といっても、内臓系は高温で、魚介系は低温で、肉系はその中間という具合に、私は火加減を変えています。そうすることで、仕上がりもおいしさもぐっと変わってくるんです」
「下味をつける」というひと手間には、旨さを引き出し閉じ込める知恵が、詰まっているといえよう。
塩と水をまぶしたあとで全卵を加える。水を入れることで全卵や塩が吸い込みやすくなる。
全卵のみだと肉が硬くなる。水を入れてやわらかく。
手でよく混ぜる。肉に卵液をしっかり吸わせることで、仕上がりがやわらかくなる。
粘り気が出てくるぐらい、しっかり混ぜる。
片栗粉と油を入れて再びしっかり混ぜ、片栗粉と油で肉をコーティングする。
天ぷらにならないように、片栗粉と全卵は少なめに。
さらに油をかけるが、このときは混ぜない。そのまま冷蔵庫に入れて落ち着かせる。
2度めの油は炒めたときに素材同士がくっつかないため。
牛肉に下味がついているため調味料が入りやすく、火も通りやすい。肉はやわらかく、ピーマンはシャキッとした歯ごたえに。
塩を軽く全体に振って味を馴染ませたら、卵白を入れてよく混ぜる。
塩はほんの少量でOK。ホタテの持ち味を引き出す程度。
素材を損なわないように丁寧に、しかし卵白を吸い込ませるようにしっかりと混ぜていく。
艶や粘り気が出てきたらOK。この感じが目安。
片栗粉をまぶしてしっかり混ぜたら、油を2回に分けて入れるのは、肉系と同じ。
1度目の油はしっかり混ぜ、2度目の油はかけるだけ。
ソラマメとゆでたタケノコとホタテを一度油通しし、その後鍋に戻して味つけをしていく。
この間、約10秒。下味をつけているからこその早業だ。
火入れに時間をかけていないため、ソラマメは色鮮やかでホタテもふんわりやわらか。それでいて味はしっかり。卵白だけを使うので見た目も美しい。
醤油を少し入れ、コショウを加えて混ぜる。その後で塩で味をしめる。
醤油を入れることで、内臓系の雑味が消える。
片栗粉をまぶしたら、油を入れて混ぜる。内臓系の場合、2回目の油はごま油がよい。
卵は使わず、少量の片栗粉をまぶすだけ。
傷つきやすい内臓系は、スプーンを使って、ごま油でマリネするような感覚で混ぜる。
やわらかい素材は傷つけないように、丁寧に混ぜる。
火が入りすぎてカチカチになりがちなレバーも、下味をつけることで仕上がりもふっくら。
下味をつけると味がのりやすく、火入れも短縮できる。
油通しをした鶏レバーと野菜を、鍋に戻して酒、醤油、豆板醤、コショウ、酢を合わせた調味料で味つけ。牛肉やホタテのときよりも高温でサッと炒める。鶏レバーの旨さが際立つひと皿だ。
脇屋友詞/Yuji Wakiya
1958年札幌市生まれ。
「山王飯店」 「キャピトル東急ホテル」 などを経て、2001年、東京・赤坂に「Wakiya一笑美茶樓」をオープン。現在、東京、横浜で4店舗のオーナーシェフを務める。「World Gourmet Summit」(11年)に参加するなど世界に活躍の場を広げている。
トゥーランドット臥龍居
東京都港区赤坂6-16-10 Yʼs CROSS ROAD1、2F
03-3568-7190
● 8:00~22:00LO(土・日・祝は9:00~) 時間帯によってメニューが変わる
● 無休
● 昼4500円~ 夜8000円~
● 180席
www.wakiya.co.jp
山内章子=取材、文 富貴塚悠太=撮影
本記事は雑誌料理王国273号(2017年5月号)の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は273号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。