コンビニのスイーツが売れている。保存方法や加工技術の近代化によってスイーツはすそ野を広げたように見えるが、0「冷蔵技術以前の時代に戻って進化し直さないと、パティスリーはコンビニを超えられない」と、東京・代々木八幡に「365日」を2013年12月にオープンさせた杉窪章匡さんは鋭く分析する。
一方で「パンは理論を学べば進化の余地がある」とも言う。ガストロノミーにそのヒントを得た、という気鋭のシェフに話を聞いた。
「自然農法や有機野菜作りに取り組む生産者の販売先となり、それを加工してお客さんに提供する、幸せな循環の形を作りたい」
2013年秋以降、福岡「ブルージャム」、名古屋「テーラテール」、神奈川「セテュヌボンニデー」など、次々とベーカリーをプロデュースする杉窪章匡さんは、プロデュースの理由をこう語る。今は料理人も、パン・菓子職人も自分の仕事が人の体にどんな影響を及ぼすかを考える時代。添加物に頼る現代の菓子は、その流れから取り残されている。しかしワインや日本酒、料理とともに自然派に向かうパンは添加物を使用しないので「まずはパンからより良い循環を目指したい」と行動に出た。
きっかけは20代の頃のフランス。既存の加工品を用いたパティスリーの菓子に幻滅したのだ。三ツ星クラスのレストランへ行くと、ソルベひとつをとっても香り高く、フレッシュな果実から作られているのがわかった。そこを目指すべく修業したブノワ・ギシャールの「ジャマン」では、年間通してレモンやルバーブなど季節の果物を調理した。
「楽しくて仕方がなかったですね。やはり食材に勝るものはない。職人にとって良いものを作れることほど嬉しいことはないですよ」
副素材を仕入れに頼るベーカリーが多いなか、杉窪さんの店では食材の加工も自ら行う。
「日本のパンを進化させようと思ったら、加工技術を知ること。ハムはブロック肉から、ツナはマグロから作ろうと考えています」
加工には調理の知識や技術が必要になるので、菓子も料理もできるパン職人を育てている。「これからの少子高齢化、個食の時代には、主食やスイーツとして完成された小ぶりのパンが求められる」と杉窪さん。
かつて河田勝彦さんや弓田亨さんの著書で学び、「感覚ではなく、ちゃんとした知識と理論があれば、おいしいものが作れる」という持論を得た体験が、杉窪さんを支えている。
白こしあん × あんぱん
十勝産大手亡を上白糖で炊いたこしあん。
ジャンボンフロマージュ
埼玉「香り豚」の自家製ハム入り。
セイグル70
北海道産ライ麦を自家製粉。
白こしあん × あんぱん
十勝産大手亡を上白糖で炊いたこしあん。
林檎 × シナモン
自家製のドライリンゴとグリーンレーズン入り。
365日
東京都渋谷区富ヶ谷1-6-12
03-6804-7357
● 9:00~19:00
● 不定休
● 6席
清水美穂子=取材、文 大野利洋=撮影
本記事は雑誌料理王国第238号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第238号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。