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パンデミック下に希望をもたらす?注目すべきニューヨークの飲食業界事情


外出禁止令が始まって2ヶ月以上が過ぎた。6月1日現在、COVID-19による死者数は全米で10万人に達し、ニューヨークでは2万人の命が奪われている。今でも街中の総合病院の前には遺体収容のための冷凍トラックが常駐しており、どこか世紀末のような雰囲気は晴れない。

 この春でニューヨーカーの20%が職を失うと言われている。長い冬を越えたこの時期はレストランが最も賑やかになるものだが、コロナ禍に直面している今はテイクアウト・デリバリー以外の飲食店のシャッターは下りたまま。すでにミシュラン星付きの寿司店「Jewel Bako」、老舗カクテルバー「Pegu Club」と有名店のクローズが相次いでいる。高額な賃料や保険料、税金に対応する公的な救済なしには小規模ビジネスが立ち行かなくなるのは明らかだ。街が再開したとしても、ソーシャルディスタンスを維持すべく縮小営業となれば利益率は見込めない。また、「失業保険の恩恵あるいは健康のリスクからか、スタッフが職場復帰をしたがらない」という声も聞く。

@Eric Concepcion
若いスケーターらに愛されているLESのバー「Forget Me Not」はパンデミックに対応して、一時的にグロサリーストア「FMN General Store 」に姿を変えた。野菜やフルーツ、缶詰などを販売する。

 一方で、明るい話題もある。業態を切り替えて店を再開させる店が増えているのだ。レストランがフードの提供を一時的に辞め、野菜やパスタなどを販売するグロッサリーに転じたケースもあれば、NPO組織と手を組んで医療従事者に食事を提供する活動に従事するケースも。イーストビレッジの「デロッシ・グローバル」は経営する9店舗のうち2軒のみに営業を限定し、カクテルを瓶入りで販売するかたわら、「Avant Garden」ではテイクアウトサービスのほか、生活困窮者のために無料の食事を4月から提供し続けている。従業員へのサポートもチャリティも、店を支援する顧客からのクラウドファンディングがあってこそ。列に並んでいた高齢の女性は、「不安でいっぱいだが、こんな状況でも弱者を気遣う店が地域にある、その事実が希望をくれる」と語っていた。

 また、自宅時間が増えたことがきっかけで人気に火がついたビジネスもある。それが、食材の配達サブスクリプションサービスだ。外出のリスク、スーパー入店までの待ち時間を避けるためにも、野菜や生鮮食品が定期的に自宅に届くというのは理想的。なかでも「Misfits Market」はウェイティングリストができたほどオーダーが殺到した注目株。農業フードロス削減をミッションに、見た目が不恰好なだけで流通できなかった“訳あり”野菜を毎週セットにして配達している。市場価格の30 ~40%オフで手に入るとあれば、人気も納得だ。

 外出自粛の間に季節が変わり、近頃では外に人が増えてきた。飲食店救済の特例でアルコールのテイクアウトが可能になったため、マスク姿でビールやカクテルを片手に散歩という光景も馴染んできた。外食産業のニューノーマルとは何か、手探りではあるが、幾多の危機に見舞われてきたこの街は必ず立ち上がってみせるはずだ。レストランはニューヨークの良心なのだから。

@Avant Garden
“Free Meals for All”を謳い、困っている人なら誰でもピックアップできる料理を用意している「Avant Garden」。通常のテイクアウトオーダーの売り上げがこのプログラムを支えているという。

小松優美
ニューヨークの食、デザイン、カルチャーを分野に活動するライター&プロデューサー。飲食店の激戦区イーストビレッジ住まいで体重増加中。

本記事は雑誌料理王国2020年8・9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年8・9月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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