こちらは、黒毛和牛のさまざまな部位のモツを、コース料理で楽しむことができる店だ。親方は、昔、牛のさばき方を学ぶために、品川の食肉センターで働いていたこともあるほどの料理人。その縁で、今もその日いちばんのモツを分けてもらえるのだという。
市場が開いているときは、スタッフが毎日買い付けに行く。店に帰ってくると、すぐに下処理。それぞれの部位に切り分け、汚れや血管はきれいに取り除く。この間、約2時間。スタッフは毎日、これを繰り返す。こうしたていねいな下処理が、ホルモン独特の臭みを取り去り、旨い料理へとつながっていく。
噛みやすく、食べやすくするために、ていねいに隠し包丁を入れるのも、この店の特徴。煮込みにも隠し包丁を入れているのは、ここぐらいではないか。鮮度はもちろん、こうした労を厭わない仕事ぶりが、25年間この店を支えているのだと僕は思う。
また、親方はさまざまなジャンルの料理を経験しているので〝料理の引き出し〞が多い。これも、この店の魅力だ。とくに、牛のアキレス腱をふぐ料理のように提供するひと皿は、親方のオリジナル。コリコリとした食感は、まるでふぐを食べているかのようだ。コースで15〜16品出てくるが、食べ飽きない、食べ疲れない。それは、味だけではなく、食感も変えて出してくるからだろう。さらに、締めのラーメンが心憎い。
「ラーメンそのものがおいしくても意味はない。モツ料理の締めに食べたときにおいしいラーメンじゃないとダメ」という親方の言葉通り、牛タンのしゃぶしゃぶの出汁をスープにした締めのラーメンは、ほんとうにお腹に優しい。
以前、二ツ星レストランのスペイン人シェフを連れてこの店に来たら、「感動で鳥肌が立った」と言っていた。「モツは嫌い」と言っていた人が、この店のモツ料理を食べて、モツが好きになった、という話は、枚挙にいとまがない。
和牛料理の店だけに、狂牛病問題やレバー事件などで何度も痛手を受けたらしい。店に客が一人も来なくなったこともあったそうだ。そういう困難を乗り越えて、25年もの間、店を続けているのはすごいことだと思う。
Sanda
牛肉料理 さんだ
東京都港区六本木4-5-9
4-5-9, Roppongi, Minato-ku, Tokyo
☎03-3423-2020
●17:30~23:30(土曜は~23:00)
●日・祝休
●コース6000円(税別)
●30席
http://sanda.tokyo/