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「ジビエ」といえばこの人。あえて選んだ淡泊な山うずら「ラ・ベカス」渋谷圭紀さん


「昔は赤ばかりだったんですが、今はみんなグレーですよね」

渋谷圭紀さんが出してくれたのは、ペルドロー(山ウズラ)のルージュ(赤)。グリ(グレー)に比べて淡白なので初心者には食べやすく、逆にジビエ好きには物足りないとされる食材だ。「赤だってちゃんと面白くなるよ、と言いたくて」。

「ジビエの匠」と知られる渋谷さんならではの、あえてのチョイスだ。ルージュは新鮮すぎると鶏に近い味を感じる。だから「1週間熟成してから調理します」。グリは3、4日で出すこともある。ジビエらしい味になったら、あとは塩をあてて焼くのみ。ここに技術が必要とされる。「肉類は高温のオイルで強引に焼かず、バターで焼きます。温度が上がりにくく、すぐに焦げるので、こちらはバターに従うだけ。難しいですが、香りもよく、理想的に焼けます」

その後、180度のオーブンで2分焼くが「これは余熱みたいなもの」。鍋ひとつで正確に火入れする技は、30年以上の熟練と、常に真剣勝負を信念としてきた賜物だ。フォンドヴォーなどを一切加えず、ジビエのみでとっただしが、ソースの決め手。しっかりと軸がありつつ、軽さのあるソースに仕上がる。

もうひと品のラビオリは、王道である肉と魚介を組み合わせたジビエ版。「こちらが主役で、ムネ肉の方が付け合わせかもしれません」と渋谷さんが言うほど、モモはジビエらしい部位だ。噛んだ瞬間、ラビオリに閉じ込められた香りがフワッと広がり、ルージュにここまでの底力が潜んでいたのかと驚く。魚介のだしとクリーム、トンブリのプチプチした食感も楽しく、ジビエを食べた!という気分になれる。

そして、この2品がのった皿の楽しみは、両者が交じり合う部分の絶妙な旨さにもある。

古典と新しい発想
〝渋谷料理〞の新たなステージ

冷製のジビエは、渋谷さんが長年提供する前菜のひとつだ。クラシカルな見た目と技術に、斬新なアイデア。渋谷料理の真骨頂はそこにある。

店名の「ベカス」は、言うまでもなくジビエの王様・山シギ(ベキャス)。稀少で貴重だが、誰もが好む味ではない。そんな山シギのような店。渋谷さんはそう名付けた。「そろそろ席数を減らして濃い仕事をしよう」と、10月に2度目の移転を行った。「ラ・ベカス」は、押しも押されぬグランメゾンから、たった12席の贅沢な空間になった。

新たな店での料理もまた、渋谷さんの確かな技と新たな驚きに満ちあふれている。

移転先は、かの湯木ビル。奥まった立地に、期待感が煽られる。

「山ウズラのロースト」ここがポイント

部位の使い分け
ジビエらしい味が濃いモモ肉は、ズッキーニ、タマネギ、ニンニク、ブランデーで作ったラタトゥイユ風の野菜類とともに、ラビオリにする。ジビエの風味を閉じ込めて逃がさない技として、渋谷さんがよく用いる方法だ。鍋でソースと合わせるため、ボイルは控えめに。

鍋ひとつで正確な火入れ
肉類はオイルではなく、バターで焼くのが渋谷さんのポリシー。焦げやすいため、神経を集中して焼かねばならないが、理想的な火入れ速度と、香り高さはオイルの比ではない。オーブンに入れた後も黒くならないよう注意し、最後は余熱を利用して仕上げる。

焼き汁も活かしきる
ペルドローを焼いた鍋は、余分な脂を切り、赤ワインを加えて一気に煮詰める。十分に煮詰めたら、心臓、肝臓、砂ずりのピュレ、ミルポワとジビエのみでとったダシを足して加熱し、パッセして仕上げる。内臓を加えた後は、なじませる程度に火を入れる。

ラビオリは魚介のソースで
キノコとオマールをバターで焼き、ラビオリを加えて、オマールのだし、貝のだし、クリーム、トマトなどで作ったソースで和える。出来上がる直前にトンブリを入れて、ざっとまぜ合わせる。魚介の風味をまとったラビオリの中にジビエが潜む、楽しいひと品だ。

肉類は必ずバターで焼く。
こちらはバターに従うだけです

山ウズラ 
モモ肉のラビオリとオマール添え

淡白な胸肉はバターで慎重にローストし、ジビエのみで取ったダシをベースにした赤ワインソースで。ジビエらしい味わいのモモ肉は、ズッキーニやタマネギとともにラビオリに仕立て、オマールとキノコを合わせ、エビと貝のダシのクリームソースで。豪快で濃厚に見えるが、軽さのある深い味わいに、フォークを持つ手が止まらない。

Yoshinori Shibuya

1961年大阪府生まれ。80年にフランスへ渡り「ポール・ボキューズ」「アラン・シャペル」など、数々の名店で10年間修業を積む。1990年に大阪市・四ツ橋で独立開店。2005年の移転を経て、2014年10月現在の場所に再移転。

ラ・ベカス
La Bécasse
大阪市中央区平野町3-3-9湯木ビル1F
☎06-4707-0070
● 12:00~13:30LO、18:00~20:30LO
●日 休、月1回不定休
● 12席
●コ ース昼8000円~、夜18000円~
www.labecasse1990.com
※要予約

藤田アキ=取材、文 中西一朗=撮影

本記事は雑誌料理王国244号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は244号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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