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【モンサンクレール】おいしく、かつ売れるための技術を追求 辻口博啓さん

モンサンクレール 辻口博啓さん

国内外で多くのブランドを展開し、次々とヒット商品を生み出す日本のトップパティシエ辻口さん。そんな辻口さんがこれまでの道のりのなかで積み上げてきた、おいしくするための技術、売れるための技術を公開する。

今、高まっているニーズを的確にキャッチした商品づくり

市場のニーズとオペレーションを意識

 日本を代表するパティシエのひとりとして辻口さんが伝承するのは、ニーズとオペレーションを意識したふたつのメニュー。一品目は、自身が開発した砂糖不使用のチョコレート「ショコラユニバース」を使用した「低糖質ブラウニー」だ。

「ショコラユニバース」は砂糖不使用の代わりに複数の甘味料を組み合わせて使うことで、グラニュー糖を使ったものと同じくらいの甘さを実現したチョコレート。糖質が気になる方や糖質の制限が必要な病気を持つ方、その家族などからの需要が高く、実際の売れ行きを見ても世界的にニーズの高まりを感じている商品だという。この「ショコラユニバース」を湯せんして、通常の小麦粉ではなく低糖質を意識したおからパウダーやアーモンドプードルなどと合わせて型に絞り、クルミを散らしてオーブンで焼くだけ。簡単に「低糖質ブラウニー」ができ上がる。

モンサンクレール 辻口博啓さん 低糖質ブラウニー
低糖質ブラウニー
砂糖不使用でとてもよく売れているという「ショコラ ユニバース」を使ったブラウニー。小麦粉も使わず、代わりにおからパウダーやアーモンドパウダーを使用している。

おいしいものを、いかに安定して作るかという工夫

おいしくするための技術が詰まったアップルパイ

 二品目は、辻口さんがあらゆる工夫の末に生み出した技術がぎっしりと詰まったアップルパイ。まず、使用するリンゴは紅玉とジョナゴールド、シナノゴールドの3種類。1種類のリンゴだけでは時期などによって味わいのブレが出るため、3種類のリンゴを使って合わせることででき上がりの品質を安定させている。さらに、3種類のリンゴをそれぞれ異なる方法で調理。紅玉は皮を半分残すようにむいてカットし、キャラメリゼに。「リンゴは皮にも旨味があるんですよ。ですから皮も食べてもらうことで、しっかりとリンゴを感じてほしい。とはいえ全部使うとゴワゴワして食感のバランスも悪くなる。ですから半分だけ皮を残すのがポイントです。皮をうまく使ってリンゴの味わいをしっかりと引き出せば、余計な味付けは必要なくなります」

 続いてジョナゴールドは、すべて皮をむいてカットしキャメリゼしたのち、オーブンで焼いて水分を飛ばす。そうすることによって、グミのような食感の「ジョナゴールドのタタン」が焼き上がる。状態がベストではなく味の薄いリンゴでも、このタタンにすると味わいが凝縮し、おいしいアップルパイに仕上げることができる。少し手間のかかる工程だが、一度に大量に作って冷凍保存してもよいという。最後にシナノゴールドは、皮をむきカットして火は入れずフレッシュのままの状態で、紅玉のキャラメリゼの残り汁に入れレモンを絞って混ぜておく。皮を残してキャラメリゼした紅玉、グミのようなジョナゴールドのタタン、フレッシュのシナノゴールド。種類だけでなく調理も変えることで味わいや食感にバリエーションを出した3種のリンゴを合わせ、アップルパイを焼き上げていく。

モンサンクレール 辻口博啓さん アップルパイ
アップルパイ
3種類のリンゴをそれぞれ異なる方法で調理し、ひとつにしたアップルパイ。さまざまなリンゴの味と食感、その他いくつもの仕掛けでリンゴの魅力を最大限に引き出す。

めざすのは、特別な技術を使わないための技術

 フィユタージュにもさまざまな技術が用いられた。まず、薄力粉を使うと食感が物足りないため、強力粉と中力粉を使用。さらに全卵を加えることで焼き上がりをよりおいしそうな色合いにする。色合いだけでも売れ行きが大きく違うという、辻口さんの経験から生まれた工夫のひとつだ。さらに、バターを織り込みながら生地の層を作るのではなく、バターと粉、その他の材料を最初にすべて混ぜ合わせてしまうという簡単な方法にしている。このときバターを大きめのサイコロ状にカットしてほかの材料と混ぜることで、あとは折り重ねるだけで生地が完成。これを四角くカットして型に乗せ、上から重石を乗せてオーブンで焼くだけ。ここにも難しい技術は必要ない。

 焼き上がったフィユタージュに、クラム(ケーキの切れ端などを乾燥させたもの)を混ぜたクレームダマンドを絞って再度焼く。この上にジョナゴールドのタタンと紅玉のキャメリゼを乗せて焼き、最後にフレッシュのシナノゴールドなどをあしらって完成。クラム入りのクレームダマンドがリンゴの水分を吸ってふんわりと風味豊かになり、ここへ3種類のリンゴが合わさって味わい深いアップルパイができ上がる。

 今回辻口さんが紹介した技術は難しいものではなく、いかに簡単にしておいしく仕上げるかという、レギュレーションとニーズを意識したもの。レストランでも新たに取り入れやすい技術の伝承となった。

モンサンクレール 辻口博啓さん
Hironobu Tsujiguchi
1967年石川県生まれ。「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」などの世界大会で数々の優勝経験を持つ。現在「モンサンクレール」をはじめ13ブランドを展開。
モンサンクレール 辻口博啓さん

Mont St. Clair
東京都目黒区自由が丘2-22-4
03-3718-5200
●11:00~19:00(サロンは17:30LO)
● 水休、ほか不定休
● 16席
www.ms-clair.co.jp


河﨑志乃=取材、文 今清水隆宏=撮影
text by Shino Kawasaki photos by Takahiro Imashimizu

本記事は雑誌料理王国2018年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2018年4月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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