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【美食書評家の「本を喰らう!」】1日百食限定。低空飛行の幸せ飲食店経営 「売上を、減らそう。」


1日百食限定。低空飛行の幸せ飲食店経営 『売上を、減らそう。』
中村 朱美
ISBN: 978-4909044228

時代に翻弄され、変化を余儀なくされる飲食店経営

右肩上がりの時代が終わり、持続可能な社会が待望されるようになった。しかし依然として、多くの人々の動力源は「お金を儲けて豊かになる(右肩上がり)」ことだろう。この狭間で生じる矛盾と、どう折り合いをつけて生きるのか今しっかりと考える必要がある。

本書は、飲食店経営を志した際に「売上を、減らそう。」という方針を立てて歩みだした、一人の女性経営者の本である。その経営の根っこには、「安定的低空飛行で、絶対に黒字を出す仕組み」を作りたい、という思いがあった。

たどりついた業績至上主義からの脱却。採用にも直結

その希求は冒頭にあるサステナブルを待望する動きと一致する。しかし本書を読むとよくわかるのだが、決して著者は流行(金科玉条)にのったわけではない。副題にあるように、著者が内発的に「たどりついた」結果なのだ。この嘘のなさが、本書の魅力の一つだ。

例えば、従業員の面接においても、従来の動力源を抱えた「優等生」や「意識高い系」は採用しない。売上を伸ばそうと頑張って、職場に物足りなさを感じてしまうからだという。与えられた金科玉条に合わせるだけの経営では、そんな発想は生まれないだろう。

右肩上がりではない、新しい成功のカタチ

著者の動力源は、右肩上がりの時代の人々とは違うのだ。新しい動力源の飲食店経営を軌道に乗せ、日経WOMAN ウーマン・オブ・ザ・イヤー 2019 大賞に選ばれた。その後に出した本書は、読者が選ぶビジネス書グランプリ2020 イノベーション部門賞受賞している。

昨今の新型コロナの感染拡大を受け、彼女が経営する1日百食限定の国産牛ステーキ丼専門店「佰食屋」がどうなっているか、私は心配していた。ただ調べてみると、規模を縮小し一層低空飛行となっているが、災禍の下でも持続可能な経営を目指して奮闘中という。

本書によると著者は、2018年の大阪府北部地震でダメージを受けた際に、「佰食屋1/2」という新業態のフランチャイズ化に挑戦している。コロナ禍はいつ終わるとも知れぬ怖さがあるが、引き続きこの著者の今後に注目していきたいと思う。

ブラック化の指摘が多かった飲食業界。そこに「売り切ったら帰る」という新発想を持ち込んだ著者。超ホワイト化の革命戦士は、「こうしなければ」という思いが「ラスボス」なのだと指摘する。固定観念と闘い、実際に動きだしてみければ何も変わらない。

1日百食限定。低空飛行の幸せ飲食店経営 『売上を、減らそう。』
中村 朱美
ISBN: 978-4909044228

プロフィール
吉村博光(よしむらひろみつ)
大学卒業後、出版取次トーハンで25年間勤務。現在は、HONZや週刊朝日などで書評を執筆中である。生まれは長崎で、ルーツは佐賀。幼少期は福砂屋のカステラ、長じては吉野屋の白玉饅頭が大好物。美食家だった父は、全国各地へ出張するたびに本や名産品を買ってきた。結果として本とグルメに目がなくなり、人呼んで“美食書評家”に。「読んで、食らう」愉しみを皆様にお届けしたい。


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