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【美食書評家の「本を喰らう!」】『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』


ロジカル思考満載。飲食店経営のバイブル

高品質と低価格で圧倒的な支持を受け、一大チェーンを築き上げたサイゼリヤの創業者・正垣泰彦氏による外食経営の指南書だ。発売直後から「こんな社長のいる会社で働きたい」「金言だらけの名著」と注目を集めロングセラーとなっている。現在はお求めやすい文庫になっているので、飲食店業界で未読の方がいれば是非一読をお薦めしたい。

「ありがちな精神論、根性論なし」という賛辞が表すように、理系経営者ならではのロジカル思考が満載だ。例えば、第1章「『客数増』がすべて」では、「おいしい」を計測する指標として「客数」をあげている。「おいしい」とは、自分が美味しいと思うかどうかではなく、お客様が「また来たい」と思うかどうかなのだ。

「良いものは売れる」は天動説

これこそ、お客様本位の考えだ。「良いものを作っていれば売れる」と考える経営者は多いと思うが、それでは売れない理由を立地やお客様のせいにしてしまう。それは、いわば天動説だと著者は指摘する。お客様に「おいしい」と思っていただけるように、自ら動くのが飲食店経営のキモなのである。

「客数」から始まり、飲食店経営に必要な指標を次々に提示する。大きいものから小さいものへ流れるように書かれているのは、まさに論理思考の賜物だろう。そしてその指標は、いずれもシンプルだ。現場で把握できない指標だと、実際の経営で役に立たないものになってしまうからだろう。だから、きっとあなたの店でも参考になるに違いない。

儲かる店を作る財務とは?

著者が重視するのは、「人時生産性」「投下資本利益率」「総資産利益率」「営業利益率」などだ。そうすると、利益を増やすべく「売上高」を増やして「原価率」を下げよう、と考えたくなる。しかしサイゼリヤでは各店に「売上高」の目標は課しておらず、「原価率」は40%以上あって良いと書いてある。それでいて、そこには何の矛盾もないのだ。

どういうことか。料理の味の良しあしの80%は食材の質で決まるから、食材の品質を落としてまで「原価率」を下げようとしてはならない、というように一つ一つの主張に対する理由は明快だ。この明快な理由の積み重ねと矛盾のなさ。本書を読みながら、パズルを解くような醍醐味と痛快さを是非味わってもらいたい。

人のため、正しく、仲良く

経営者がこのような姿勢なら、人事評価の基準が明確になる。従業員にとって、それは働きやすい職場に違いない。上司に取り入った人間がどんどん出世していくような会社では、安心して能力を発揮することなどできない。客数を増やすべく、従業員が力を合わせて正しく頑張って評価される職場。サイゼリヤの経営理念は「人のため、正しく、仲良く」だ。

この理念の下で戦略が組まれ、戦術に落とされ、その結果人が育っていく。創業当初に1000店舗という大きすぎる目標を口にして笑われた、と著者は述懐している。結果として店舗を増やせたのは、任すことができる人材を育てたからだ。人から笑われるような大きな目標を、本気で追い求めた結果である。本書に学ぶべきものは大きい。

サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ
正垣 泰彦(著)

吉村博光(よしむらひろみつ)
大学卒業後、出版取次トーハンで25年間勤務。現在は、HONZや週刊朝日などで書評を執筆中である。生まれは長崎で、ルーツは佐賀。幼少期は福砂屋のカステラ、長じては吉野屋の白玉饅頭が大好物。美食家だった父は、全国各地へ出張するたびに本や名産品を買ってきた。結果として本とグルメに目がなくなり、人呼んで“美食書評家”に。「読んで、食らう」愉しみを皆様にお届けしたい。


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