およそ1万年前から羊と人間はともに暮らしてきたという説もある。一方、日本の羊肉食の歴史はわずか100年。1918年に日本の農商務省が掲げた「緬羊百万頭計画」(25年間で緬羊を100万頭に増やすという計画)で、国内でも羊毛や羊肉の活用方法の研究がようやく始まったレベルだ。羊肉歴が浅く、羊の知識や羊肉を食べるためのナレッジも薄いことは否めない。羊の偉大な側面を知れば、必ずやありがたみも増すわけで、知れば知るほど羊肉をもっと美味しく味わえる15のことをご紹介。
国内に出回る羊肉の60%がオーストラリア産、38%がニュージーランド産で、残りの2%弱の中に他国の羊肉がひしめく。ちなみに国産羊肉は1%未満といわれている(各国からの輸入量の詳細は「12章」を参照)。羊肉串焼きのブームがいまだ続く韓国でもオーストラリア産羊肉の需要が2014年から爆発的に増えており、2018年は15,000トンを超え、日本の輸入量をわずかながら追い抜いた。
1957年には国内に約94万頭いた羊だが、2017年時点の国内の飼育頭数は17,821頭(※1)。羊の飼育数が減ったきっかけは昭和30年代に羊肉・羊毛の輸入が自由化された(P22参照)ことにある。しかも一般的な羊は1度の出産で1頭(多くても2頭)しか産まない。一度減ると増やしにくい家畜なのだ。そのうえ、豚や牛などに適用されるような助成制度もなく、8章で紹介する通り、世界中から輸入される羊肉には関税がかからないため、格安な輸入羊肉と価格差で負ける。羊の畜産という生業がそもそも「産業」として成り立たない仕組みになっているのかもしれない。
※1 「めん羊統計 – 畜産技術協会」
第2次大戦後は衣料資源の不足による国産羊毛需要が急増し、コリデール種を中心に全国各地で増頭、1945年の約18万頭から1957年には飼養頭数は94万5,000頭に伸びる。しかし1959年に羊肉への関税が撤廃され(羊毛は1961年に輸入自由化)、安価な羊肉・羊毛の輸入が急増、1976年には国内の羊は10,190頭にまで減ることに。その後、羊の食肉需要が増え1990年には3万頭を超えたが、2004年には11,000頭に再び減じ(※)、2017年には17,821頭に。ただし輸入羊肉量は延び続けており、関税がゼロ%で国の保護がないことが良くも悪くも羊肉の急拡大に寄与したのかもしれない。
※「綿羊肉需給に関する日中比較分析 – 酪農学園大学紀要」
1人あたりの年間羊肉消費量をみてみよう。羊肉を最も食べるオーストラリア人が1人で年間8kg、ニュージーランドは4kgの羊肉を食べるのに対して、日本人は1年でたったの200g! 左のグラフでは識別できない量である。「ゆえに日本の羊肉マーケットには十二分にポテンシャルがある」と言うのはMLA(ミート・アンド・ライブストック・オーストラリア)の三橋一法氏。ちなみに中国では年間238万トンの羊肉を生産している(※1)が、1人あたりの消費量が3.5kgなのは、豚・牛・鶏に加えてロバなどの畜産や野生動物なども旺盛に食べるからだろうか。
羊とともに過ごした時間は極端に短い日本だが、羊が初上陸したのは599年と思いのほか早い。推古天皇7年(599年)に百済より2頭献上されたという記録が最も古いとされる。ただし、「羊齧協会」の主席・菊池一弘氏によれば「この時は家畜というよりは珍しい動物として献上された可能性が高く、肉食文化や羊毛の活用技術がなく定着しなかった」という。
text 水 亨一
取材協力 MLA (ミート・アンド・ライブストック・オーストラリア)羊齧協会
本記事は雑誌料理王国2020年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年3月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。