羊を知るシリーズvol.3 知れば知るほど羊肉をもっと美味しく味わえる15のこと


 およそ1万年前から羊と人間はともに暮らしてきたという説もある。一方、日本の羊肉食の歴史はわずか100年。1918年に日本の農商務省が掲げた「緬羊百万頭計画」(25年間で緬羊を100万頭に増やすという計画)で、国内でも羊毛や羊肉の活用方法の研究がようやく始まったレベルだ。羊肉歴が浅く、羊の知識や羊肉を食べるためのナレッジも薄いことは否めない。羊の偉大な側面を知れば、必ずやありがたみも増すわけで、知れば知るほど羊肉をもっと美味しく味わえる15のことをご紹介。

11章 脂の融点が44℃以上

 脂肪の融点で眺めると羊肉は44 ~55℃で主な家畜の中で最も高く人間の体温では溶けにくい(牛脂が40 ~50℃、豚脂が33 ~46℃、馬脂が30 ~43℃、鶏脂が30 ~32℃、ちなみにコーン油が-18 ~-10℃)。脂肪は冷めると凝固する。人の体温より高い融点を持つ牛肉や羊肉を使った料理はアツアツで食べたほうが良いことは確かだ。

12章 羊肉の輸入国は俄然、増加中

■ 羊肉の輸入届出数量

 国内で流通する98%強の羊肉はオーストラリア産とニュージーランド産が占めるが、残り2%弱のパイを巡る羊肉輸入国の群雄割拠ぶりが面白い。「輸入食品監視統計」で輸入国別の輸入量ベスト5を公表している厚生労働省によれば、2016年にフランス産の、2018年にはアメリカ産の輸入が再開された結果に追い込まれ、ハンガリー産がランキング落ち。P41でも登場するウェールズ産やアルゼンチン産など後続の輸入国も増えており、国内で味わえる羊肉のバリエーションが増えている。これは羊肉の関税が0%であることによる恩恵なのかもしれない。

13章 オージー産はチルドが急増中 ~その理由は?~

■ オーストラリア産チルドラム輸入量

 国内に輸入されるオーストラリア産のラム肉は、2015年からチルド(無冷凍肉)が増加中。その背景にあるのは「スーパーでの取り扱いが増えたことと、飲食店での提供食数が延びたこと。ともに冷蔵肉のほうが売れるのです」と、ミート・アンド・ライブストック・オーストラリアの三橋一法氏は言う。国内のチルド需要を支えているのは物流環境の向上だ。冷蔵船が完備されたことで、オーストラリアでは全輸出量の36%がチルドに。オーストラリア・日本間の冷蔵船の航海は約14日。ラム肉がウェット・エイジングして食べ頃になる日数と同じだ。国内に到着した瞬間に食べ頃を迎えるというわけである。

14章 スーパーでも羊肉、ファミレスでも羊肉

「#(ハッシュタグ)アロスティチーニ」が2019年末からSNS上で話題に。「アロスティチーニ」とはラム肉の串焼きで、イタリア中部アブルッツォ州の名物。「サイゼリヤ」が2019年12月18日に提供するや予想を超える大反響、原料が確保できない状態に。一時販売を休止していたが、2月5日から神奈川県を皮切りにエリアと期間を限定して復活することになった。もはや羊肉はファミレスでも市民権を得ている。
 都市部のスーパーでは精肉コーナーにラム肉の棚があるのは、もはや見慣れた風景。2017年に本州・四国の「イオン」系列全396店舗がラム肉の取り扱いを始めたことは業界で話題となったが、埼玉県を拠点に1都6県で165店舗を展開するスーパー「ヤオコー」でのラム肉の扱いは2013年と早かった。ニュージーランド産羊肉の部位やカット方法のバリエーションが豊富に揃う。
 羊肉に特化したクミン風味のスパイス「羊名人(ようめいじん)」が「ヤオコー」に並び始めたのは2019年のこと。中華食材の輸入商社「中華・高橋」が企画「、中國菜 老四川 飄香」の井桁良樹シェフが開発し、羊肉を文化として広める消費者団体「羊齧協会」が毎年11月に主催する「羊フェスタ」で販売してきた。それに目をつけ、いち早く店頭に並べたのが「ヤオコー」の商品開発担当部長の近野 潤氏。「私が北京駐在時に慣れ親しんだ羊肉串の味を楽しめる商品だと直感しました。お客様の食生活を豊かにすることを本気で考えるという企業理念に沿えば、羊肉の魅力をさらに広げる「羊名人」の取り扱いは当然の決断」だったという。現在「ヤオコー」チェーンの約半数、70店舗で販売中だ。

実はこの「羊名人」、サイゼリアの「アロスティチーニ」に添えられるスパイスと味わいが似ているため「アロスティチーニ」ロスを解消しようと自宅で再現を試みる人々の間でも話題になっている。

15章 地方自治体がまちおこしのエンジンとして羊を活用し始めている

 羊や羊肉を利活用する地方自治体も増えている。例えば、石川県では農林総合事務所の主導で中山間部の農業補助事業として羊の飼育に取り組む。羊は小柄で牛より扱いやすいため老人や女性が就農しやすいのだ。その他、北海道の士別市は観光資源としてサフォーク種をブランド化。長野県の伊那市は羊肉を使った郷土麺料理「ローメン」でまちおこし…岩手、長野、奈良などを「ジンギスカン飛び地文化圏」としてブランド化する動きも。


text 水 亨一
取材協力 MLA (ミート・アンド・ライブストック・オーストラリア)羊齧協会

本記事は雑誌料理王国2020年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年3月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする