精進料理の食材ルールQ&A


精進料理には使ってはならない食材がある。国が変わってもルールは同じなのか、ニンニクやお酒などは殺生に当たらないがなぜ食べてはいけないのか、素朴な疑問を広島市の八屋山普間寺の吉村昇洋さんにたずねた。

Q 精進料理で使わない食材は、国や時代、宗派が違っても共通しているのですか?

A 日本と世界では考え方が異なり、ルールにも違いがあります。

「例えばインド古来のお釈迦様の時代では『三種の浄肉』であれば食べて良いとされていました。自分のために殺されたところを見ていない、聞いていない、疑いが一切ない肉のことです。日本の禅寺では一堂に集まって食事をしますが、あちらでは『托鉢たくはつ 』が基本です。大体午前10時~正午に出かけて家々を回り、朝食の残り物を頂きます。残り物なので基本的に『浄肉』に当てはまるというわけです。インドで大乗仏教が興ると、当時のヒンズー社会の影響を受け、徐々に肉を食べることが禁止されていきました。その後伝播した中国や日本では、その背景を汲み取っています」

Q 殺生には当たりませんが、なぜ「五葷」が定められたのですか?

A 強い匂いと不浄によって、仏道修行の妨げになるからだと言われます。

 

「インドの部派やチベット仏教などで用いられる規律書『根本説一切有部律こんぽんせついっさいうぶりつ 』の1つにこんな話が書かれています。

お釈迦様が説法中に、ある弟子がしばしば顔を背けていました。理由を聞くと、ニンニクを食べたので周りの人に迷惑をかけてはいけないと思い、集中して話を聞くことができなかったのだそうです。それならばと、ニンニク・ネギ・ニラの類を食べることを禁じました。例外として病気の者は食べても良いが、ニンニクを食べたら一週間はお寺に戻って来られないなど制約を設けました」

Q 僧侶の隠語でお酒を「般若湯はんにゃとう 」と表現するのはなぜですか?

A 酒を飲むと般若経を唱える声が良くなることから、酒が般若湯と呼ばれるようになったようです。

 

「般若とは『知恵」という意味を持ちます。『酒を飲むと仏の知恵が舞い降りるから般若湯」といった説をよく耳にしますが、実は誤解です。様々な文献をたどり、南宋時代の張邦基ちょうほうき が記した『墨荘漫録ぼくそうまんろく 』に行き着きました。そこにはこのように記されています。
中国の唐時代、旅の僧がある寺を訪れて、浄人に酒を買いに行かせました。仏教において酒の売買は重罪とされているため、寺の住職は激怒し、酒の瓶を奪って木に投げつけました。すると瓶は粉々に割れ、中の酒は緑色の宝玉ほうぎょく となって木にへばりつきました。旅の僧はこう言いました。『私はいつも般若経を携えていて、酒を一杯やると、お経を唱えるのに良い声が出る』と。木に盃を近づけると、玉は酒となって落ち、それを飲んで良い気分になったそうです。『酒を飲むと良い声で般若経が唱えられる』というのが般若湯の由来だったのです。

仏教には守るべき5つの戒めの徳目があります。『殺し』『盗み』『性欲』『嘘』『酒』です。なぜ酒が禁止されているかというと、深酒をすると、お酒以外の4つを誘発してしまうのですね。ちなみに酒を飲むよりも、酒を売買して他者に広げることのほうが罪が重いとされています。

料理においての酒の使用に関しては、永平寺でも料理酒を使っていますし、私も同じく使います。アルコール分は飛ばしますから、酔っ払ってしまうことはありません」

Q コロナ禍で、古代日本で作られていた乳加工品「 」の再現が流行しました。「蘇」とは何ですか?仏教との関係性は?

A 「蘇」は牛乳を煮詰めるとできる固形物です。

「『蘇』は大和朝廷への献上物でした。仏教では、供物や贈り物として使用されたようです。日本における牛乳の歴史をたどってみると、庶民に広がったのは明治以降。それまで口にできたのは、古墳~平安時代の天皇や貴族といった一部の人々だけで、一般的な僧侶は目にする機会もなかったでしょう。ちなみに曹洞宗の精進料理では牛乳は使われません」

材料
牛乳(成分無調整)500ml


作り方
1. フライパン(テフロン加工がおすすめ)に牛乳を入れて、沸騰したら中火で約25分、木ベラなどでかき混ぜながら煮詰める。
黄色に色づき、まとまりが出てきたら火を止める。ラップでくるんで形を整え、冷蔵庫で粗熱を取ったら完成。


監修 吉村昇洋 text 笹木菜々子

本記事は雑誌料理王国312号(2020年10月号)の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 312号 発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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