冬の魚をどう使う? レストランカンテサンス 岸田周三さん


魚でイメージどおりの味を生むにはフレンチの技術とアジャストメントが必要

秋から冬にかけて、サワラは岸田周三シェフが好んで使う食材のひとつ。味わいが上品で食感もよく、水分量がほどよいので、イメージどおりの火入れができるのが理由のひとつだ。岸田シェフは、店にサワラが届くとすぐに頭と尾を切り落とし、冷蔵庫で寝かせてから調理する。今回は、₁日寝かせたサワラ(個体差で異なる)を骨付きのまま塩とイチジクの葉でマリネし、魚の中心がレアになるように焼き上げた。

「サワラを見るポイントは、体長に関係なく、身が張っているかどうか。ラグビーボールのように肥えた感じのものがいいですね」。こうした状態のサワラは脂がのっていて、焼くと身がきれいな乳白色になり、レアで桜色に仕上げた中心部と美しいコントラストを見せるのだ。

サワラ【鰆】徳島県産
サワラ【鰆】徳島県産
地方名: ヤナギ(徳島)、 サゴチ(若魚、関東)
スズキ目・サバ科に属する海水魚で細長い体が特徴の肉食魚。その漢字からもわかるように、江戸時代は春の食材として親しまれていたが、現在は秋から冬が旬。

業者への事細かなリクエストもよい素材を得るための条件

仕事の丁寧なシェフは食材に対する注文も多い。岸田さんも例外ではない。魚の大きさ、棲んでいる海域、獲り方、しめ方や下処理の方法、梱包の仕方などについても仲買業者にオーダーする。

「サワラは、ふっくらと太ったものなら4キロ、₆キロ、₈キロと重くなるほど味がよく、₈キロぐらいになると別格の旨さなんです」

獲れた魚は必要に応じて神経抜きなどの処理をしたあと、魚に直接氷が触れない状態で送ってもらう。「これからはタイもおいしいですね」。タイの場合は明石のタイに限定し、欲しい魚の特徴を業者に伝えると、おのずと海域や釣る人まで限定されるのだという。希望の魚を入手するには仲買人と信頼関係を築くことが絶対条件で、食材を観察して、要望や感想を逐一伝えることだ。

カンテサンス岸田周三シェフ
サワラの中央はレアに仕上げる。「これ以上火が入るとサワラの魅力が半減してしまう」と岸田シェフ。

食材とは真剣に対峙します。
「これが最高だ」と言い切ってしまったら、料理人としての成長は止まってしまうと思います。

だが、魚料理の本番はこれから。焼きがうまくいかなければ、せっかくの食材が台無しになってしまう。これに関してはフランス修業時代の恩師で、「アストランス」のオーナーシェフ、パスカル・バルボ氏の教えが強く印象に残っている。「個体差の大きい天然魚の場合、こうすればうまく仕上がるというセオリーはない。料理する前に必要なテクニックを決めるのではなく、まずイメージを決めてから、どんな技術が必要かを考えるべきだ」。岸田さんは「カンテサンス」を星付きレストランに育てた今もその教えを肝に銘じる。常に最善を尽くしながらも、「本当にこれでよかったのか」と毎日自分に問いかける。決してラクなことではないが、それがあるから、岸田さんの料理はブレない。だから「カンテサンス」の魚料理は、美しくて旨いのである。

イチジクの葉でマリネしたサワラのロースト
イチジクの葉でマリネしたサワラのロースト
サワラは塩をふって3時間ほど休ませたら、出た水分をふき取り、イチジクの葉に巻き、ラップして1日休ませる。ローストする際はイチジクの葉を取ってフライパンへ。全体に焼き色が付いたら、再びイチジクの葉に包んで焼き、次にオーブンで焼く。オリーブオイルで炒めたジロールやトランペットなどのキノコ、ゆでた落花生、素揚げした銀杏などと盛り付ける。 ロースト

Suzo  Kishida
1974年、愛知県出身。三重県の志摩観光ホテル「ラ・メール」、東京・銀座「カーエム」を経て渡仏。「アストランス」などの星付きレストランで修業後、帰国し、2006年、「レストラン カンテサンス」を立ち上げる。翌年、「ミシュランガイド東京 2008」で三ツ星を獲得以降、その後も三ツ星を維持し続ける。

レストラン カンテサンス Restaurant Quintessence 岸田周三さん

レストラン カンテサンス
Restaurant Quintessence
品川区北品川6-7-29
ガーデンシティ品川御殿山1F
03-6277-0485
03-6277-0090(予約専用)
www.quintessence.jp


上村久留美=取材、文 富貴塚悠太=撮影
text by Kurumi Kamimura  photos by Yuta Fukitsuka


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