岸田シェフ、米田シェフの教えを独自の皿に「レストラン レミニセンス」


葛原将季さんは、東京の「カンテサンス」と大阪の「HAJIME」、ともにミシュラン三ツ星の東西の名店で学んだ。個性の違うふたりのシェフから得たエスプリを、皿の上でどう活かすのか―― 葛原さんの答えは「緩急をつけ、少量多皿で組んだコース」だった。異なる皿が繋ぐコースには、両方の「師匠」から学んだテーマと技が凝縮されている。「カンテサンス」で学んだ最大の要素は、岸田シェフの「キュイソン(火入れ)とアセゾネ(調味)とプロデュイ(素材)」だ。的確で繊細な火入れの技術は、岸田シェフの代名詞でもある。「肉は丸ごと焼く」との教えを守り、鴨の表面だけを焼いた後は、スチコンよりも穏やかに火が入る温蔵庫でじっくり低温調理を行う。さばいてからサラマンダーで表面を焼くが、一瞬たりとも肉から目を離さない。「今! と感じた瞬間に火から下ろします。岸田シェフのそばにいて、体で覚えた感覚です」。「肉料理はシンプルに、どっしりと」。ガルニチュールも2~3種に留め、肉の醍醐味を味わってもらう"岸田流"が葛原さんの肉料理なのだ。「アスリートが0.1秒を追い求めるように、味の追及を怠らない岸田シェフの姿は、生涯の指針です」。

多種多用な素材を用いた複雑で楽しいスペシャリテ

「HAJIME」で学んだのは、緻密で複雑な料理と、皿の上だけではないレストランでの楽しみ方。

米田シェフが「地球との対話」をテーマに店づくりをしているように、葛原さんは「余韻と記憶」をテーマに掲げる。メニューには「序章」と題したコンセプトと、「余韻「」記憶」「安堵」「追憶」の4章からなるコースの内容が素材名だけで記される。

米田シェフのエッセンスを活かした皿は、葛原さんのスペシャリテでもある「鰻」。味付けは塩のみで、1切れだけエピスオイルをかけ、あとは多種の薬味を組み合わせながら食べる。意外なマッチングや箸休めでワクワクさせる、複雑な皿だ。「米田シェフならではの素材の扱いの緻密さや、考え抜く姿勢。そのためには調理の枠に囚われず、和包丁から医療器具まで自在に使う頭のやわらかさも学びました」

実は2013年に「カンテサンス」を辞した後、フランスに行くつもりで現地に打診までしていた。

「でも、今やフランス帰りの料理人は珍しくない時代。それよりは日本屈指の料理人であり、岸田シェフとは方向性が違う米田シェフの下で学ぶ方が、はるかに得るものが多いのではないかと考え直したんです」

クラシカルでシンプルな料理、科学的で複雑な料理。現代を牽引する師匠のエスプリを秘めた、ハイブリッドな店が「レミニセンス」だ。「場所も東京と大阪の中間(笑)。継ぎはぎではなく、どちらとも違う自分の店を創るのが今の課題です」

ふたりのシェフのDNAを継承し、どう進化するのかが楽しみだ。

岸田さんから学んだ火入れ技術を活かして低温で焼いた千葉県産コルヴェールに、カシスとビーツ、モリーユ茸を添える。「肉料理はあくまでもシンプルに、インパクトを大事に」という岸田さんの教えを守ったひと皿。

炭火で白焼きにした鰻は、1切れだけエピスオイルをかける。根セロリの燻製ピュレ、金柑の皮、わさび、青ネギなど多種の薬味を添えて、自由に組み合わせながら食べ進む。米田さんから学んだ、複雑で楽しい料理。

特殊な器具、火入れ技はふたりの師匠譲り

鴨の筋を取り除くのは「包丁よりも繊細な仕事ができる」と米田さんが使っていた医療器具。そのほかフグ切り包丁、先端が針になった精度の高い芯温計など、特殊な調理器具の利点も米田さんから教わり、踏襲している。

火入れのコツは岸田さんに倣う。「肉は丸ごと焼く」ことを基本に、今回の鴨なら表面を焼いた後、 65℃の遠赤外線温蔵庫で1時間45分。芯温48.5℃になったら、最後にサラマンダーと炭火で1、2分焼いて熱々に仕上げる。

Masaki Kuzuhara
1985年名古屋市出身。名古屋のフランス料理店で基礎を学び、2009年より東京「レストラン カンテサンス」、13年より大阪「HAJIME」で研鑽を積む。鰻を学ぶため名古屋の鰻専門店「蓬莱軒」を経て15年7月独立。

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藤田アキ=取材、文 川瀬典子=撮影 

本記事は雑誌料理王国2016年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2016年3月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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