外国人トップシェフたちが見た、長野の食の魅力とは?


里山はインスピレーションの宝庫!
外国人シェフが見た長野の食の魅力

食における地域性への回帰は今に始まったことではないが、コロナ禍を受けて、地域の生産物を地域で消費する傾向や、料理人の流動化が顕著になっている。さらに、食への取り組みが熱心な自治体では、トップシェフと生産者を積極的につなげ、地域の食を包括的にレベルアップする動きが加速中だ。その中でも、今回は特に、長野県と岩手県の動きに注目。まずは、「信州ガストロノミーツア ー」と銘打った3日間にわたるシェフたちの食材巡りの旅を紹介。地域×ガストロノミーのハイレベルな共創はすでに始まっている。

生産者の情熱に直接触れる食材ツアー

2020年11月15日、秋深まる長野·王滝村の里山。木曽地方に古くから伝わる発酵食のひとつ、「すんき漬け」の製造工程を興味深そうに見つめ、仕込みを体験するのは、元「Chez Panisse」総料理長で、現「ブラインド·ドンキー」シェフ、ジェローム· ワーグ氏、キャロライン·ケネディ氏在任中の在日アメリカ大使館総料理長を経て、現在「MB CULINARY」を主宰するシェフのマリべス·ボーラー氏、そして、元「INUA」部門シェフで2020年11月より「松本十帖」料理長に就任したクリストファー·ホートン氏の3人の外国人シェフたちだ。中でも、「すんきをかじった瞬間、長野の食のランドスケープを感じとり、はっと目が覚めた」というのは、ワーグ氏。その衝撃は、まるで「“長野エスプレッソ”!(長野のよさを抽出したという意味で)」と熱っぽく語る。「食の経験は、自分にとってはよりシンプルなものが印象に残ります。今回のすんき漬けとの新たな出合いはまさにそう。屋外で燃えている焚き火、冷たく澄んだ空気、そして背景に広がる長野の山脈。こういう素朴で伝統的な食のシーンが大好きです」とほほ笑んだ。

彼らが参加した「信州ガストロノミーツアー」は、長野の多様な食を、食材の使い手であるシェフに知ってもらうべく長野県が開催した旅(企画・運営:H3 FOOD DESIGN)。3日間にわたり、日本酒、味噌、天然きのこ、野沢菜などの地元の生産者や、木曽漆器の工房、料理マスターズ受賞者·北沢正和氏の「職人館」などに足を運んだ。 もともと豊かな山の幸に恵まれ、独自の発酵食文化を擁する長野。すでに美食の土壌は整っている。そこに、トップシェフが新たな風を送り込んだなら、長野のガストロノミーはよりクリエイティブに耕されるに違いない。

王滝村のすんき漬けの工房で、仕込みを体験するワーグ氏。 彼にとって今回もっとも印象に残る訪問先となった。

現に、ツアーに参加したホートン氏もボーラー氏も、今回、食材との出合いに大いに感化されたようだ。「もちろん、味噌は以前から知っていた食材だが、訪問した『大桂商店』味噌造りを視察して、新たな発見が得られました。肉料理のソースに使ってみたい」(ホートン氏)。「今回出合ったすんきや野沢菜の漬け物の手法を活用しようと思います」(ボーラー氏)。

食材もさることながら、3人が揃って感銘を受けたのは、長野の生産者の「熱量」の高さだ。実際に顔を見て言葉を交わさなければ、その情熱に触れることは叶わない。コロナ禍の今、地域の魅力は「人」が支えていることを再確認できたのも、実際に現地に足を運べばこそ。発見に満ちたこのツアーが、長野県のガストロノミーでどう芽吹くのか、今後の動向に注目したい。

薪の上のアミューズ りんごのミニおやき/有機古代米の五平餅/野沢菜プチシュー
1日目のディナーは、宿泊先の浅間温泉「松本十帖」内にある薪火グリルダイニング「三六五+二(367)」で。

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text 浅井直子 photo 深澤慎平

本記事は雑誌料理王国2021年2月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2021年2月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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