「イタリア中部トスカーナ地方では、骨付きの牛肉をレアに焼いて豪快に食らいつきます」
田中祐介さんは、トスカーナ料理とワインに魅せられ、現地で5年間修業して33歳で独立。「トスカネリア」をオープンした。本場のビステッカの味わいを和牛で追求する。
トスカーナでは、イタリア原産のキアニーナが使われるが、それに似ているのが日本のあか牛。
「熊本産のあか牛を使っていましたが、ここの仔牛で徳島県の牧場に送られたものが、すだちの果汁を入れた餌で育つと聞きました。そのすだち牛が、赤身とサシの割合がベストだと思います。オリーブを餌に入れたオリーブ牛、漢方を入れた牛など生産者は餌に工夫を凝らしていますが、同じ品種の牛でも餌によって肉質は変わってきます」
すだち牛のフィレ肉の表面を炭火で「燻す感じ」で焼いたら、その後、じっくりと20分ほど休ませて旨味をしっかりと閉じ込める。中はレアの焼き上がりだ。味つけは塩とコショウ。そして、ソースのように使われるトスカーナ産のオリーブオイルが、イタリアの風を運ぶ。
骨こそ付いていないが、トスカーナの食と文化を愛する田中シェフ渾身のビステッカである。
150gにカットしたフィレ肉を常温に戻し、塩、コショウをして、オリーブオイルを塗る。これを網にのせ、肉の表面を炭火で焼く。焼くというよりは、燻す感じになり、肉の表面は備長炭の香りをまとうことになる。
表面を炭火で焼いた肉をアルミホイルに包む。これを45~50℃に温めたディッシュウォーマーの中で15~20分休ませる。この過程ですだち牛のフィレ肉の旨味は閉じ込められ、よりジューシーな肉質となる。
かすかに炭の香りをまとった牛のフィレ肉は、塩とコショウ、オリーブオイルで味をつける。力強い味わい。赤身肉の旨さをしっとりと引き出した、このひと皿の魅力が凝結している。ポルチーニ茸とジャガイモを交互に並べてグリルした付け合せと、フィレ肉の下に敷いた白インゲン豆のボイルが、肉の旨味とハーモニーを奏でる。
牛フィレ肉…150g/塩、コショウ、オリーブオイル…各適量
付け合わせ
フレッシュポルチーニ茸…40ℊ/ジャガイモ(レッドムーン)…40ℊ/白インゲン豆…50ℊ/塩、オリーブオイル、パルミジャーノチーズ、重曹、ニンニク、セージ…各適量
飾り用
タイム
Yusuke Tanaka
1976年、兵庫県神戸市生まれ。 21歳でイタリアへ。5年間、トスカーナ地方の小さなバールや現三ツ星レストランを中心に修業。2002年、汐留「リストランテアレッサンドロナンニーニ」の総料理長就任のため帰国。 2010年、33歳で独立。「トスカネリア」をオープンする。
長瀬広子=取材、文 新山貴一=撮影
本記事は雑誌料理王国245号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 245号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。