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昨年、土俵を銀座から風情漂う神楽坂に移し、四川料理店「芝蘭」はさらにパワーアップを図っている。そんななか、料理に中国茶を合わせる試みを始めた。メニューに漫然とお茶リストを並べるのではなく、店のドリンクマイスターの肩書を持つ吉田正洋さんが、料理長の袁衛 さんの料理に合わせたり、お客の体調に合わせたりしてお茶をセレクトしている。「ワインと料理のマリアージュのような黄金の組み合わせは中国料理にはありませんが、お茶が料理を引き立てることが多々あります。うちでは、大きめのポットでたっぷりお出しして、食中茶としてお召し上がりいただいています」と吉田さん。独自のルートで安全で上質な茶葉を手に入れ、600mlのポットに約5gの茶葉を基本にして淹れている。
現場の経験と独学で深めたお茶の知識を踏まえて、中国料理と中国茶のおいしい関係を吉田さんに教えてもらった。「ぜひ、上質の茶葉を手に入れてください。質のよいお茶は渋味が丸く、料理の味の邪魔をしません。また、お客さまにおすすめするとき、お茶をワインにたとえると、とてもよくわかっていただけます」。この説明法、ぜひ活用していただきたい。
四川の発酵調味料、泡辣椒の辛味はとても繊細。これによって、エビの甘味と蕾菜の淡い苦味が際立ち、唐辛子の清冽な辛味は後からほんのり感じられる。杭州に「龍井蝦仁」(芝エビの龍井茶炒め)と呼ばれる有名な料理があるように、エビとお茶の組み合わせは相性がよいとされている。凍頂烏龍は、中国大陸産の烏龍茶より発酵度が弱く、茶葉本来の香りと淡い渋味が残る。この味が野菜とエビの旨味を引き出すので、この料理とお茶の関係はまさにマリアージュ。凍頂烏龍は白ワインにもたとえられ、野菜や魚介類と合う。
蕾菜と芝エビの炒め 泡辣椒の香り
赤トウガラシを塩水に漬けた中国・四川省の発酵調味料「泡辣椒」と塩だけで調味。芝エビは塩と卵白で下味をつけ、野菜とともにざ っと炒める。
凍頂烏龍
台湾中央部の険しい山岳地帯・凍頂山一帯で採れる高品質な烏龍茶。清新な花の香りを持ち、後味には甘い蜜の香りのする半発酵の青茶。
食材を合わせてから、紹興酒を何回かに分けて加える。汁気がなくなるまで火を通し、さらに酒を加え、また炒めて味を入れ込んでいく方法を「干 」という。古くからの四川料理の技法で、素材の芯まで調味料の味がじんわり浸み込む。このようにしっかり味を入れた料理には、焙煎の強い鉄観音が合う。濃厚で芳醇、華やかな甘味のある鉄観音は、脂分の強い肉の味に負けず、一緒にいただくと爽やかな食後感となる。鉄観音は赤ワインにたとえられ、肉料理にぴったりだが、その力強さはオールマイティで、どんな料理にも合う。
新タケノコ 四川伝統の技法で
挽き肉、ザーサイ、干しエビを炒めたものと、揚げた筍とピーマンを合わせ、甜麺醤ベースの甘辛調味料をしっかり含ませた力強い味。
鉄観音
観音様の恵みで見つけた茶樹、という伝説が名前の由来。青茶の中でも最高級と称えられる茶葉のひとつで、なかでも福建省安渓産が誉れ高い。
デザートには、香り高く、見た目も優雅な玫瑰花を茶葉とブレンド。玫瑰花はバラ科のハマナスの花。甘い香りに、ビタミンCが豊富、ホルモンバランスを整えてくれると、女性に人気。胡麻団子には、あんこの濃厚な後味をさっぱりさせてくれる凍頂烏龍とのブレンドを。フルーツ系には、紅茶のように豊かな風味の東方美人をブレンド。淹れ方のポイントは、出す直前に、まず茶葉をポ ットに入れ、上に玫瑰花をのせてからお湯を注ぐと、花の香りが充分に開く。
杏仁豆腐
旬のイチゴのソースを合わせた、おなじみの杏仁豆腐の春バージョン。
玫瑰美人
玫瑰花と東方美人のブレンド。東方美人は、台湾で生産される烏龍茶の一種で、比較的発酵度が高く、紅茶のような味わい。
揚げ胡麻団子 桜の香りで
桜の花びらの塩漬けを適度に塩抜きし、生地とあんに練り込んで作った胡麻団子。たおやかな桜の香り、香ばしい胡麻があんの甘さを引き立てる。
玫瑰烏龍
玫瑰花と凍頂烏龍のブレンド。1煎目は玫瑰花の甘い香りがすっと立ち、2煎目は烏龍茶の味が際立つ。
北村美香=文・構成 上原ゆふ子=写真
本記事は雑誌料理王国2011年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2011年4月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。