松葉ガニ、ラッキョウ、ナシなど食材が豊富な鳥取県が、2006年に新たなブランドを立ち上げた。天然岩ガキの「夏輝」である。真ガキの旬は秋から春だが、岩ガキは、産卵前の7月から8月中旬に旬を迎える。
岩ガキの産地は日本各地にあるが、生育期間を4年間以上とって漁獲されるその大きさが夏輝の特徴。殻長10センチメートル以上で、なかには13センチメートルを超えるほど大きいものもあり、そのサイズになると1個約1000円の値がつく。大味と思われそうだが、身に甘味があり、大きい身をつるんと口に入れた時の食感と喉越しがよい。
「その昔、鳥取には岩ガキを食べる習慣がありませんでした。流通するようになったのは1970年代からです。貝の安全性を確認するため、鳥取県ではノロウイルスや貝毒の検査を行っています」と説明するのは、鳥取県産魚PR推進協議会の前嶋宏さんだ。
岩ガキは岩礁などに生息するものだが、70年代後半、漁港施設の整備のためにブロックを沈めたところ、人工魚礁に岩ガキが付き始めた。89年頃から漁獲量が徐々に増加。その頃は今より早く5月頃から捕り始め、小さいものも採取していた。その結果2000年をピークに漁獲量が減少。乱獲を防ぐ意図もあり、夏輝ブランドを立ち上げ、採取してもいい大きさと漁獲期間を定めた。
夏輝は殻を開けてそのまま食べるのが一般的だが、鳥取市「ビストロフライパン」のシェフ、奥平常男さんは、夏輝をソース・ラヴィゴットで食べるレシピを提案する。野菜のみじん切りを使ったソースで食べる夏輝は、野菜のシャキシャキ感が加わり、その大きな身に新たな味わいが生まれる。
ウグイスガイ目イタボガキ科。漢字名は岩牡蛎。冬が旬の真ガキに対し、夏においしいことから、夏ガキとも呼ばれる。殻形が大きいため、クツガキなどの地方名もある。また形状によ って、壺のような丸みのあるものを壺ガキ、全体が平らなものを平ガキといい、一般に平ガキのほうが高値で流通する。日本海や房総、日南海岸などの岩礁に生息し、ミネラル分などを含む伏流水が出る地域の岩ガキがおいしいとされる。最近は養殖物も増えている。鳥取県漁業協同組合では、水深8~10mの天然岩礁に生息する岩ガキを素潜りで採取してきた。近年漁獲量が減ってきたことも手伝い、ボンベを使用する潜水器漁業を行う人も微増。この6月下旬、鳥取県漁協酒津支所の樽谷捷二さんと居川春美さんは、10年ぶりに潜水器漁業を再開した。酒津漁港沖に沈められた約750個の人工魚礁では、10年間ほど岩ガキ漁をしていなかったこともあり、樽谷さんと居川さんは、大きく育った岩ガキを水揚げしている。かつて無制限で採取していたせいで漁獲量が激減した苦い経験を生かし、鳥取県漁協酒津支所では総量規制を設定。1日ひとり5箱(約160個)の漁獲量制限を設けている。
武井武史=文、ヤスクニ=写真
本記事は雑誌料理王国2010年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2010年9月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。