下関のフグが全国区になったのは明治以降のことらしい。フグ好きな長州藩士が維新後、下関のフグ料理を吹聴して歩いた。そのおかげで瀬戸内海西部産のトラフグが珍重されるようになっていったのだそうだ。
現在、国内で流通しているトラフグの9割が養殖ものだ。天然ものはわずか1割。そのうちの約割が遠州灘産だといわれており、なかには下関に送られるものもあるという。「1989年、玄界灘や東シナ海での水揚げが減ったため〝、遠州灘天然とらふぐ〞が脚光を浴びるようになりました。でも、浜名漁業協同組合では45年も前からトラフグ漁が盛んに行われていたんです」と語るのは、浜名漁業協同組合(静岡県浜松市)のフグ漁師、鈴木邦夫さん。
浜名漁業協同組合では、漁が解禁になる10月から2月までの間、約60艘の船がフグ漁に専念。その内の約20艘が一本釣りで、約40艘が底延縄と呼ばれる漁をしている。鈴木さんはフグ漁を始めた35年前から、底延縄を得意としてきた。
「日の出とともに操業を始め、600本の針が付いた長さ5㎞の底延縄を2本仕掛けます。トラフグは鋭い歯で噛み合うため、商品価値が下がらないように水揚げしたらすぐに歯を切らなければなりません」
漁期は5カ月間もあるが、しけで年間50日ほどしか漁に出られない。水揚げ量は5年間隔で周期があり、変動が激しいという。
「しかもここ数年間、浜値が下がりつつあります。とはいえ〝遠州灘天然とらふぐ〞の味は、養殖ものとは比較になりません(笑)」
フグ目フグ科。ホンフグ、マフグ、フクとも呼ばれる。上半身が黒褐色で、下半身が白い。胸びれのすぐ後ろに大きな黒色斑があり、その後方にも小さくて不規則な黒色斑が散在する。昭和初期から養殖が試みられ、現在、陸上養殖を行っている地域も増えている。遠州灘のトラフグは春頃、志摩半島や渥美半島の石や海藻に産卵するといわれている。フグ漁師の鈴木邦夫さんによれば、天然ものと養殖ものは尾を見れば区別できるという。「尾がきれいなものは天然です。鼻でも見分けることができます。片方の鼻に穴がふたつあいているものは天然ものです。切り身では区別しにくいのですが、養殖ものは1日経つと水っぽくなります」。
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中島茂信=文、森寛一=写真
本記事は雑誌料理王国2011年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2011年3月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。