靖国神社の土塀を望めるビルの2階に今年4月、全12席のこぢんまりとした和食店「九段おおつか」を開業した大塚和馬さん。虎ノ門「さ和長」で店長兼料理長を務めたのち独立。「和食の店いがらし」でサービスを担当していた妻、花恵さんと夫婦で開業した。
飲み物込みで1万円以下に収まる気軽さをめざし、夜のおまかせコースは4800円~とリーズナブルに設定。いずれのコースも土鍋ごはんをしめに提供しており、造りや焼物はあくまでもそれを引き立てる位置付けという。タイやウニ、タケノコ、カモなど旬の食材を使って一台ずつじっくりと炊き上げたその味付けは、メインたりうるしっかりとしたもの。たとえば、珍しいカモの土鍋ごはんは、肉の脂がこってりと米に染み渡り、男性客にも人気の一品となっている。
昼は1500円の焼き魚などを使った定食と1000円の親子丼(季節に応じて変更)を提供。「ほかに飲食店が少ない静かなところで」という開業の際のエリア設定が功を奏し、周辺勤務のOL客で早くも満席になる日も多いという。
着物姿でサービスを担当する花恵さんは、ドリンクの仕入れも行う。日本酒は純米酒に絞り、さらりとしたものからコクがあるものまで幅を持たせ、一合600円から提供。ワインはブルゴーニュ産を中心に和食に合うやさしい味わいのものをグラス650円から提供している。
内装でこだわったという白木をふんだんに使った店内は清潔感にあふれ、ご夫妻の人柄を表すよう。日常に根ざした、日々通いたくなる和食店だ。
時季により数種類用意する土鍋炊き込みごはんの中でもよく出るという店の看板メニュー。米は“佐渡 コシヒカリ”、鯛は南房総産のものを使用。じっくりと弱火で炊き、米の甘味ともっちり感を引き出す。夜のすべてのコースとアラカルトからの一品。
米…1.5合/鯛の頭…半身/塩…適量/合わせだし…315㎖(二番だし…300㎖、淡口醤油…8㎖、濃口醤油…7㎖、塩…適量)/木の芽…適量
1.米を研ぎ、流水にさらす。米をざるにあけて水気をよく切っておく。
2.鯛の頭の鱗を取り、エラ、内臓を取り除く。
3.鯛の頭に串を打ち、薄く塩をあて、遠火で20分間ほど両面を焼く。
4.土鍋に1の米を入れ、合わせだしを加えてよく混ぜたあと、米を平らにする。ふたをして中火でじっくり炊く。
5.土鍋のふたの穴から水分が吹き出してきたら、弱火に落として5分間ほど炊いたあと、火を止め5~10分間蒸らす。
6.提供する直前に木の芽を細かくきざみ、ごはん全体に散らしてふたをし、少し蒸らして香りを立たせる。
大塚和馬
1977年東京都生まれ。競走馬調教助手から25歳で料理人に転身という異色の経歴の持ち主。2002年西麻布「茶寮つくし」入店。5年間の修行ののち、その系列店である虎ノ門「さ和長」に入店。店長・料理長を経て今年4月に自店をオープン。
平田浩基・写真 text : Cuisine Kingdom
本記事は雑誌料理王国2011年7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2011年7月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。