「食べるなら、肉感が楽しめるような分厚いカットのステーキ。噛んだ瞬間、肉汁がジュワーッと出るような肉をほうばってほしい」。
言葉の端々から〝牛肉愛〞が伝わる。谷利通シェフは、休日の食事も牛肉頻度が高いという筋金入り。幼少期にアメリカで暮らしたことがあり、アメリカンビーフを食べ慣れていた経験も記憶に刷り込まれているようだ。それだけに、求める牛肉は霜降りの少ない赤身で、脂の質も高いもの。食べごたえは欲しいけれど重たくならず、品数の多いコースのメインディッシュとして成立するかどうかも考慮する。
そうした条件を掲げる谷シェフの期待に応えるのが、北海道は北十勝ファームの上田ひろみさんが育てた短角牛だ。
「霜降りが少ない赤身で旨みが強く、脂の質も高いのでしつこくない」。以前は黒毛和牛を使っていた。選択肢がなかったこともあるが、サシの後味がどうしても気になった。
「ポン酢で食べるようなしゃぶしゃぶだったら、松阪牛も美味しいと思う。料理によっては霜降りがいいときもありますが、ソースを使うとどうしても重くなる」と、自身の店では赤身に切り替えた。北十勝産の短角牛は、すぐに使える状態のものをある程度の大きさで仕入れ、店の冷蔵庫で食べごろを見極めている。
使用する部位は主に、イチボやランプのようなモモ肉。繊維質が交差してやや硬さがある部分は、薄切りにしてローストやグリエ、カルパッチョ風に仕立てることもある。柔らかい部分はシンプルなステーキにする。1人前で約100g、脂を外して90gと、コースにしてはなかなかのボリュームだ。全体に塩をしたら、片面に細挽きの完熟こしょう、もう片面には粗挽きの黒こしょうで風味づけ。噛んだ時に香りを放つ粗挽きが上になるよう、最初に焼き始める。
「牛は牛の脂で焼きます。サシがないので強火で焼くとまわりが硬くなり、パサついてしまう。中火を保ち、周りを焼き固めます」。
バターを加えて軽くアロゼしたら、休ませるのもそこそこに盛り付け。ソースはシンプルに、この日は肉の味を引き立てるマスタードソースを合わせた。
「僕の場合、焼きっぱなしだしほとんど休ませない。肉汁もソースのうち、だから基本的にカットはしません」と、谷シェフ。
肉好きならではの会心のステーキ。持ち味は存分に発揮されている。
材料
牛肉(イチボ)…100g /タイム…1/2枝/ローリエ…1/2枚/ニンニク…1片/バター…10g /塩、黒コショウ(細挽きと粗挽きの2種類)…各適量
● 付け合わせ
シイタケ…肉厚のもの1個/ミニトマト…大1個/ジャガイモ…1/3個/ジロール茸…適量
● ソース
コンソメ…50g /バター…60g/マスタード …20g /エストラゴン…適量
作り方
1. 牛肉のイチボは脂を外して下準備する。
2.肉全体に塩と黒コショウをする。
こしょうを使い分ける
細挽きにしたカンボジア産の完熟有機こしょうと、粗挽きの黒こしょうを使い分ける。噛んだ時に香りが華やかに立つように、粗挽きを表にする。
3.フライパンに1で外した牛脂を熱し、脂が出たところに肉を入れる。
4.タイム、ローリエ、ニンニクを加えて肉に香りを移す。
牛は牛の脂で香ばしく焼く
牛脂で焼くのが谷シェフのポリシー。食べ応えがあるように、厚く切り出す。タイム、ローリエなどのハーブとニンニクで香りづけ。風味も増す。
5.中火で肉の周りを焼き固める。バターを加えて軽くアロゼし、フライパンから取り出す。
中火で焼いてバターでアロゼ
肉の脂が出てきたら、バターを加えてアロゼする。休ませる時間はごくわずかで、焼きたての香りを強調。凝縮した旨みと肉感が楽しめる仕上がりに。
6.肉を皿に盛り付け、シイタケのエスカルゴバターと、トマトのロースト、ジャガイモのポムパイヤソン、ジロール茸のソテーを付け合わせに添える。
7.コンソメ、バター、マスタード、エストラゴンでソースを作り、6にかける。
レストランタニ 谷利通さん
広尾「アラジン」に19歳で入店。基礎を学んだ後、渡欧。フランス、スイスで4年半修業し、帰国後は2号店の「メゾン・カシュカシュ」のシェフに。2012年1月に同店オープン。
レストラン タニ
東京都港区南青山3-2-6モリヤサンライトビル 2F
03-6804-2266
● 12:00~14:00 LO、18:00~22:00 LO
● 日曜、第2月曜休
http://restaurant-tani.com/
Cuisine Kingdom=取材、文
本記事は雑誌料理王国第220号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第220号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。