一度は訪れたい中国料理の人気店(3)「南麻布 茶禅華」


中国料理のその先へ
「和魂漢才」で新しい料理を生み出す

茶禅華 川田智也さん

2017年2月、広尾の閑静な住宅街に「茶禅華(さぜんか)」はオープンした。中国料理界では、開店前から話題に上っていた注目店だ。料理長は、四川料理「麻布長江」で10年、「日本料理 龍吟」で5年、研鑽を積んだ川田智也さん。注目される理由は、彼の経歴に寄るところも大きい。中国料理を修業していた間には中国本土で食べ歩いた。現地の料理に感銘は受けた。しかし、日本の食材を使うときに、同じ調味料や調理法でそのままやっていいものか違和感を覚えた。

「日本の食材の活かし方や扱い方をもっと知らなければ、この先には進めない」と痛感し、日本料理を学ぶ決意を固める。食べ歩く中、衝撃を受けたのが「龍吟」だった。

「今までの料理感が覆された感じでした。『龍吟』は、日本料理の繊細さだけでなく、力強さも併せ持っていた。こんな料理を作れる人になりたいと強く思ったんです」  28歳で門を叩き、「昼は仕込み、夜はサービス」を3年間経験した。


有栖川宮公園の近く、元大使館公邸だった2階建ての一軒家を改装してつくられた。1階にはお茶を入れるコーナー「悟りの窓」も。喧噪から離れ、ゆったりとした時間が流れる。

そののち、台湾の「祥雲龍吟」の立ち上げに参加した。
「日本料理からは、食材を尊重することを学びました。食材を見て、インスピレーションでメニューを組み立てていく。そこが中国料理と違うところ。中国料理では完成された名菜が多数存在するので、技術を磨いて完成形に近づくこと、完成度を高めることが求められます」

中国料理の技術と日本人の精神があってこそ作れる料理を目指しています

「龍吟」仕込みの炭火焼きが主軸
日中の技術を融合させてひと皿に

「龍吟」仕込みの炭火焼き
赤むつの皮目に卵白を塗って玄米のお焦げを張り付けたら、遠火の強火の備長炭で皮目から焼く。3回ほどスプレーで黒酢を吹きかけながら焼き、ひっくり返して身を焼く。最後は近火の強火で皮目に火を入れる。

店のコンセプトは「和魂漢才」。中国の文化を、日本人の精神を持って昇華し、表現すること。それは、日本料理の技法を取り入れた料理はもちろん、茶葉・抽出方法ともに吟味したお茶、中国に影響を受けた作家が創作する九谷焼きや有田焼きの器など、随所に表現されている。

 川田さんがもっとも力を入れているのが 、 「龍吟」仕込みの炭火焼きだ。「赤むつの焼物 中国江南の香り」もそのひとつ。卵白を塗った赤むつの皮目に、玄米のお焦げを張り付け、中国黒酢の鎮江香醋をスプレーで吹きかけながら炭火で焼く。サクサク感を残しながら、黒酢の風味、香りや色合いをお焦げにまとわせ、最初は遠火の強火で、最後は近火の強火で仕上げる。身が硬くならないよう、9割方で留めて余熱で火を通す。「日本料理の最高の焼き方は炭火焼き。『龍吟』ではそこをしっかり勉強したいと思っていました」

 赤むつの焼物には、アレンジした上海の名菜「マコモダケと蛯子(えびこ)の煮込み」を添える。中国と日本が融合し昇華されたひと皿。「日本の食材と中国料理が調和することで生まれるおいしさを目指します」と川田さんは語った。

赤むつの焼物  中国江南の香り
赤むつに玄米のお焦げを張り付け、黒酢を吹き付けて備長炭で焼いたひと品。赤むつの骨でとったスープに、春雨、揚げたマコモダケ、焼きナスを加え、醤油と砂糖で味付けたものを下に敷いている。揚げたディルを添えて。
Tomoya Kawada
1982年栃木県生まれ。調理師専門学校在学中に「麻布長江」でアルバイトとして働き、卒業後そのまま入社。28歳で「日本料理 龍吟」の門戸を叩き、3年後に台湾「祥雲龍吟」の立ち上げに参加、副料理長に就任。昨年退職し、今年2月、「麻布長江」時代の先輩・林亮治さんと「茶禅華」をオープンさせた。
東方美人茶のスパークリングや3日間熟成させた阿里山茶など、ティーペアリングも用意している。お客様の4割ほどがティーペアリングを注文するという。

茶禅華
Sazenka
東京都港区南麻布4-7-5
03-6874-0970
● 火~木17:00~23:00(21:00LO)金土12:00~15:30(13:30LO)18:00~23:30(21:00LO)日12:00~17:30(15:00LO)
● 月休
● 24席
http://sazenka.com/


名須川ミサコ=取材、文 富貴塚悠太=撮影

本記事は雑誌料理王国第273号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第273号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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