東京とシンガポール、別々の舞台で活躍するアンドレ・チャンさんと岸田周三さんだが、かつてはフランスの星付きレストランで苦楽をともにした仲。独立してからも互いの存在を意識して仕事に励んできた。ふたりは、15年の時を経て、コラボレーションディナーの約束を果たした。習練と経験を重ねてきた今だから、いっそう互いのスケールの大きさを感じたと口を揃える。
岸田シェフは、強い信念で内なる世界を追求する。アンドレシェフは、外からの刺激を咀嚼して成長していくタイプ。異なる料理哲学を持つふたりだが、実は15年ほど前、南仏モンペリエにあるフランス料理の名店「ジャルダン・デ・サンス」でともに修業をした。
修業を終えて別れる際、「きっといつか、一緒に料理をしよう」と誓い合ったのだ。
フランスを後にしたふたりは、脇目もふらずにトップシェフへの道を突き進んできた。気付けば岸田さんは日本を代表する三ツ星シェフに、アンドレさんは国際都市シンガポール随一のスターシェフになっていた。岸田さんの営む「レストランカンテサンス」は2カ月先まで予約で埋まり、アンドレさんの店「レストランアンドレ」には、毎日必ず海外からの客で満席になる。そんなふたりが今春、東京で2日間だけのコラボレーションディナーを開いた。長年の夢の実現。このディナーには、総席数の5倍の申し込みがあったという。
多くのシェフとコラボレーションしてきたアンドレさんに対し、岸田さんは、これまでずっとオファーを断り続け、今回が初めてという。岸田さんにはその理由があった。「僕はかなり綿密にやりたいタイプなので、他人とのコラボには踏み切れなかった。でも、気心の知れたアンドレとならできると思って」
シンプルにしてモダン、凝縮された上質な料理を生み出す岸田さんが、最初の相手に選んだアンドレさんとは、どんな人なのだろうか――。