刺激し合うトップシェフ二人のコラボ!岸田周三さん、アンドレ・チャンさん

レストランカンテサンス 岸田周三さん・レストランアンドレ アンドレ・チャンさん

「完璧さ」と「即興」は綿密な準備から生まれる

[André] カニのラビオリ/西洋ネギのコンソメ、メロンスノー

[André] カニのラビオリ/西洋ネギのコンソメ、メロンスノー
カニのラビオリをコンソメに付けると甘味と旨味が増す。メロンスノーとの相性もよく、小鉢には甘味たっぷりのトウモロコシのムースが。アンドレさんがこの料理で大切にした料理哲学は「ユニーク」。

[Shuzo]甲殻類を使った四角いソッカ

[Shuzo] 甲殻類を使った四角いソッカ
ヒヨコ豆を原料とするソッカは南仏の郷土料理。本来はクレープ状にするが、岸田シェフは四角に成型。クルマエビとの食感の違いも楽しい。

記念すべきコラボレーションディナーでは、計15皿を半分ずつ担当した。そのうちひと皿をサプライズとし、共同作業で仕上げた。岸田さんの仕事ぶりを間近で見たアンドレさんは、「日本のシェフとコラボして、いつも感心するのは、完璧な仕事ぶりと集中力。ことに岸田シェフのレベルは高いと思います」と感嘆。さらに、料理としては、「カモとピーカンナッツのクレープ」が強く印象に残ったと言う。

「今までの岸田シェフの料理とは違う複雑な味わいとテクスチャー。新しい世界に挑戦しているのが見て取れました」。コラボレーションディナーには、シェフの料理をよく知るゲストが参加することが多い。だからこそ、「新しい味の世界を発表する絶好の場でもあります」とも言う。

[Shuzo] カモとピーカンナッツのクレープ
岸田さんが作った料理の中で、アンドレさんが一番興味を持ったひと皿。理由は皿の中にシェフのチャレンジ精神を感じたから。フォワグラのテリーヌ、生ハム、キャラメリゼしたピーカンナッツなど、バラエティに富んだ食感が面白く、ゲストはこれを北京ダックのように巻いて食べる。


一方、岸田さんが、アンドレさんの作った料理の中で最も印象に残ったのは「イカのパスタ/海藻のクーリとパウダー/ライススフレ」。細切りにしたイカ料理を盛った皿の横にはオリジナルジュースが付いていて、絶妙のマリアージュでゲストを楽しませる。「そういう料理の出し方もアリだなと思いました」と岸田さん。

このジュースは、コブ茶の中に穀物など種の食材や調味料を入れて3カ月ほど発酵させたもの。アンドレさんの店の踊り場には、こうした自家製の発酵食品の樽が並んでいて、そこを通るたびに発酵独特の臭いがするのだ。

[André]イカのパスタ/ 海藻のクーリとパウダー/ライススフレ

[André] イカのパスタ/ 海藻のクーリとパウダー/ライススフレ
イカをパスタに見立てて細切りにし、海藻などで作った海のエッセンスを感じさせるソースと合わせた。塩は使わず、海藻やイカそのものの塩味でいただくこの料理哲学をアンドレさんは「ソルト」と説明した。添えられたピンク色の液体は、コブ茶でさまざまな食材を発酵させたジュース。

「僕の料理には即興が多いから、岸田シェフは大変だったのでは――」というアンドレさんの問いかけに、岸田さんは、「自分とはまったく違うやり方に、とても刺激を受けました。それに即興といっても、アンドレの場合、いろいろな場面を想定して、シンガポールから随分多くの食材を持ってこられましたよね」。たしかに、合作料理に使った自家製のラルドもそのひとつで、ゲストに大好評だった。

[André][Shuzo] 
サプライズとしてゲストに振る舞われたふたりの合作料理。それぞれの感覚で火入れをした野菜が並び、アンドレさんが持参した自家製のラルドや乾燥キャビアの粉が野菜の旨味を引き立てる。

今回のコラボについて岸田さんは、「後にも先にもこれ1回!」という気持ちで臨んだと言うが、再びコラボする時のために、アンドレさんから究極のアドバイス。
「ぎりぎりまで努力したら、あとはリラックスして臨んだほうがいい。最高の結果が出せるのは、緊張してがんばっている時より、むしろリラックスしている時だと思うから」

懸命に大役をこなしても、次なるステージが待っている。不眠不休の努力の日々を自らに強いてきたシェフ同士だからこそ、通じ合う本質的な理解と愛がそこにはあった。

他の料理人との違いを認識することで進む方向が見えてくることもあります。(岸田)

もしそれが正しい方向だと思うなら、ためらったり、怖がったりはしません。(アンドレ)

ダイナースクラブ主催のコラボレーションディナーは「レストラン カンテサンス」で行われた。厨房で話し合いながらひとつのコース料理を完成させていくふたり。前から決まっていたものもあれば、1日前に形になったものもある。
ダイナースクラブ主催のコラボレーションディナーは「レストラン カンテサンス」で行われた。厨房で話し合いながらひとつのコース料理を完成させていくふたり。前から決まっていたものもあれば、1日前に形になったものもある。

岸田周三/Shuzo Kishida
1974年、愛知県生まれ。三重県の志摩観光ホテル内のレストラン「ラ・メール」、東京の「カーエム」を経て、 26歳で渡仏。ブラッスリーから星付きレストランまで、数軒の店で腕を磨く。 2006年に「レストラン カンテサンス」を開店。07年、ミシュラン三ツ星を獲得し、現在も維持している。

アンドレ・チャン/André Chiang
1976年、台湾生まれ。15歳で渡仏。「ジャルダン・デ・サンス」で修業後、「トロワグロ」「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」「ピエール・ガニェール」「アストランス」などを経て、2010年、シンガポールに「レストラン アンドレ」を開く。15年、「アジアのベストレストラン50」の5位にランクイン。

レストラン カンテサンス
restaurant Quintessence
東京都品川区北品川6-7-29ガーデンシティ品川御殿山1F
03-6277-0485
03-6277-0090 (予約専用)
30席
www.quintessence.jp

レストラン アンドレ
Restaurant André
41 Bukit Pasoh Road, Singapore 089855
+65 6534 8880
32席
http://restaurantandre.com

上村久留美=取材、文 富貴塚悠太=撮影

本記事は雑誌料理王国255号(2015年11月号)の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は255号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは、現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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