素材をどう選び、どう扱うか。優れたシェフが最初に注力するのはそこで、素材との対峙なくして良い料理は生まれない。だからこそ自ら素材を選び、その状態にこだわる。そして良いシェフは素材を解放する。決して自分のエゴで素材を押さえつけたり封じ込めたりしないものだ。もちろん、無駄にするなどもってのほか。
ロンドン中心部の一等地であり、ファッション通の聖地として知られるブティック・ビルBrownsの一画に2021年に再オープンした Nativeは、そういう意味で私が今、最も信頼しているレストランの一つだ。
共同オーナー・シェフのアイヴァン・ティスダル=ダウンズさん(Ivan Tisdall-Downes / 写真下)がチームとともに、自然との対話の中で生み出された最高の食材を、サステナビリティという調和の中で“あるべき”状態に昇華していく。ここでは食材がほころび、自ら語りかける。廃棄を限りなくゼロに近づけ、自然からの贈り物を賢く分かち合う。出来上がった料理は、味わいも見た目も、誠実で歓びに満ちている。
Nativeは今、ロンドンで最もエシカルなトップレストランの一つなのだ。
Nativeが誕生したのは2016年。ロンドンで生まれ育ったアイヴァンさんはほとんど独学で技術を習得した天才肌だ。英国産食材の旬や性質について学んだのは、国内では知らぬ人のいないデヴォン地方の有名レストラン、リバー・コテージ。その後、さらなる経験のためニューヨークへ渡り、持続可能な食のシステムをいち早く取り入れた農場レストランとして名高いBlue Hill at Stone Barnsの厨房を知る。そこでは人が今後どう食に関わっていくべきかなど、未来を担うシェフたちの課題を見極めることになった。
一方、共同オーナーである大学時代からのパートナー、イモージェン・デイヴィスさんは根っからの田舎っ子。ジビエ、フォレジングなどに精通し、Nativeで提供している自然食材調達のオペレーションを引っぱる、影の立役者だ。
現在までに市内で2度ロケーションが変わったものの、二人は一貫して<Native>(天然のもの・地元食材)というシンプルなテーマを追求してきた。実はパンデミック中、イングランド東海岸の自然あふれる小さな島にも新たなベンチャー・レストランを立ち上げた。海に囲まれたそこは、野生の食材を採取するのにうってつけで、ロンドンのレストランに新鮮な食材を運ぶための重要な拠点になりつつある。
Nativeでは、食材やシステムはもちろんのこと、調度品や食器なども含め全てが持続可能なソースに通じている。テイスティング・メニューはそのショーケース。例えば「Chef’s Wasting Snack」(廃棄物スナック)は通常なら捨ててしまう部分を利用した小さな突き出し類なのだが、驚くほど味わい深く、インスピレーションに満ち、そして美しい。
コースを通して野菜、海の幸、お肉と、ちょうど良いバランス・分量なのも心地よい。とにかくアイヴァンさんの料理は理念、味、見た目、全てが理想的でピッタリとくる。冒頭で「封じ込める料理よりも、解放する料理がいい」と書いたが、それは自然の声を聞いて寄り添い、その力を放出させてやることで食材が生き生きとしてくるから。Nativeの料理には文字通りほとばしる生命力がある。
静かな中庭には廃材をアップサイクルしたテーブルや椅子が並ぶ。グリーンに輝くガラス製テーブルトップに、さらに周囲の樹木が映し出されこの上なく瑞々しい。それはまるで、土から始まる食の連鎖を象徴しているかのように。
Native At Browns
https://www.nativerestaurant.co.uk
text・photo:江國まゆ Mayu Ekuni