日々、料理に研鑽を重ねているのは、シェフも料理家も同じ。
一方で、シェフが飲食店でゲストに料理を提供するのと、家庭料理のコツを教えるのでは異なる視点が必要だ。
そこで、生産者、プロのトップシェフ、料理家の三者の交流を広げ、互いに刺激し合い、ともに料理業界を盛り上げる。
そんな新しいコミュニティを構築するためにスタートした企画が、この「料理王国アカデミーサロン」。
今回はラム肉の魅力を発信する“ラムバサダー”としても活躍する田淵拓シェフに、4人の料理家が学んだ。
2021年末にスタートした「シェフに聞く、料理王国アカデミーサロン」。一線で活躍するシェフと料理家とを食材を通じつなぐ場として好評を博している。3回目に登場してくれたのは、新感覚のイタリア料理で人々を魅了する、東京・西麻布「S’ACCAPAU(サッカパウ)」の田淵拓シェフだ。お店で提供するのは、最先端のモダンを落とし込んだ料理の数々だが、それらは確かな基礎に裏づけられたもの。当日は、イタリアやドイツをはじめ、ヨーロッパ各地で15年にわたって経験を重ねたシェフならではのこぼれ話も加わり、新鮮な驚きと笑い声に溢れた時間となった。
田淵シェフが教えてくれる「料理王国アカデミーサロン」のテーマ食材は、オージーラム。日本でもお馴染みとなったオーストラリア産ラムは、安全管理が徹底され、まろやかな肉質が特徴。田淵シェフ自身、ラムが好きで「サッカパウ」でもよく使う食材だという。さらにオージーラムの魅力を日本全国に伝える〝ラムバサダー〞としての肩書きも持つほどだ。そんな田淵シェフが教えてくれた2品は「オージーラムラックのレモンとハーブ風味のソテー グリンピースとソラマメ添え」と「オージーラムのラグーと手打ちピチ」。どちらも田淵シェフが6年を過ごし、現在も探求し続けているイタリアのエッセンスが余すところなく発揮されている。
「オージーラムラックのレモンとハーブ風味のソテー グリンピースとソラマメ添え」は、塊のラムラックを、肋骨1本ごとに切り分けて、ラムチョップにすることから始まる。骨の間に包丁を入れて切り分けたら、レモンやハーブでマリネしてからソテー。ソテーしてからマリネするやり方は一般によく知られる方法だが、先にマリネしてからソテーするやり方は、日本ではあまり知られていない。
だが、このやり方は「ラムが苦手な人にこそ、試して味わってほしい」と田淵シェフ。好きな人にはたまらないラムの匂いは、苦手な人にとってはラムを敬遠する大きな要因になっている。「マリネしてから使えば、あらかじめ匂いを和らげられ、敷居がぐっと低くなります」と話す。これには、料理家の方々も納得することしきり。さらにつけ合わせの豆類に柑橘系のマーマレードを加えて、味わいを一段引き上げる技も紹介され、学びの多い一品となった。
もうひと皿「オージーラムのラグーと手打ちピチ」では、トスカーナの伝統的なパスタ、ピチが披露された。ピチは、中力粉、水、オリーブオイル、塩のシンプルな材料を使って、手でこねて作る。パスタマシンがなくても気軽に挑戦できるパスタだ。
合わせるのは、ラムのラグー。ラムラックのソテーで余った端肉を使う。さらに余裕があれば、骨からダシをとって加えるといいと、田淵シェフ。よりラムの重層的な味を醸し出せるからだ。味だけでなく、食材をムダにしない知恵も存分に詰まった一品は、ラムのうま味たっぷりのラグーに手打ちパスタのピチがよくからみ、食べ応えがある。どちらもちょっとしたコツをつかむことで、家庭のひと皿から洗練されたプロの仕上がりへと変化する。
アカデミーサロンが開催された日は折しもイースターへ向かう頃、イースターとラムの関連などにも話が及んだ。イタリアではイースターにラムは欠かせない食材で、食卓はラム一択。皿の上だけでなく、その背景までをも学べた、充実の時間となった。
田淵 拓
1978年、徳島県生まれ。イタリア各地のレストランで6年修業後、ドイツ・ハンブルグで2軒のレストランをプロデュースし、メインシェフを歴任。帰国後の2016年、東京・西麻布にイタリア料理店「サッカパウ」をオープン。型にはまらない“今”を体感できる料理を生み出すフードクリエーターとして活躍。
S’ACCAPAU
東京都港西麻布1-12-4
nishiazabu 1124ビルB1
TEL 03-6721-0935
平日 17:30~23:00(21:00LO)
土日ランチ 12:00~15:00(13:00LO)
ディナー 17:30~23:00(21:00LO)
佐々木綾子
音大に通う傍ら精進料理を勉強する中で、素材の味を引き出す調理法に感銘を受け、料理の道へ。エコール辻東京卒業後、東京都内のイタリア料理店、大手外食産業本部に勤務を経て、独立。現在、“おうちSDGs”に積極的に取り組み、料理に適用。忙しくても無理なく取り組める簡単レシピを提案。
https://www.ayakosasaki.com
やわらかくて味わい深いラムの魅力を再認識できました。脂のとり具合やマリネから、最終的なラム肉の「香りの着地点」を再構築することを学びました。ラム肉の旬は春。今回のソテーがそうであるように、春ならではの野菜と合わせて、季節を演出するのは楽しいですね。アイディアがあれこれ浮かんできそうです。ラムラックを買ったときに、骨や端肉も余さず使うやり方を教わり、積極的に取り入れたいと思いました。
受講後の考案レシピ:ラム肉と揚げごぼうとパクチーの汁なし担々麺
伊藤くみ IMAGINER(イマジネ)
会社員を経て、服部栄養専門学校で学ぶ。フランス料理店勤務後、1998年より、料理教室「IMAGINER」を主宰。“豊かな食卓はココロのゆとりと元気の素”をモットーに、フライパンひとつでもできるフランスの家庭料理を提案。20年以上にわたる料理教室は、のべ1万人1000人以上が受講。
https://itokumi-foodie.com
脂肪を蓄積させにくいとされるラムは、味も香りも好きな食材です。それゆえ、なかなか思いがいたらなかったのですが、今回のアカデミーサロンを通じて、ラムが苦手な人の立場に立って、その上でどう料理するか、さらにどうすれば品よくまとめられるか、学びの連続でした。第一線で活躍なさっているシェフや、他の料理家の方々とご一緒できたことで、新しい視点が持て、自分の料理の幅を広げてくれる発見がありました。
受講後の考案レシピ:ラムチョップのミントレモン風味のソテー カポナータソース添え
若井めぐみ ヴェール エクラタン
モットーは“ハーブをもっと身近な食材に”。2011年にスタートした料理教室では、おいしいだけでなく、身体にやさしいハーブの魅力を伝えている。現在、教室はオンライン開催としており、遠方やなかなか外出できない方に好評。レストランやカフェ、メディアへのレシピ提供なども行う。
https://vert-eclatant.com
どちらのお料理もハーブがラムのニオイを消したり、相乗効果でおいしさを演出したり、とハーブが果たす役割の大きさに改めて気づかされ、非常に興味深かったです。ラムは食わず嫌いな人、またヘルシーな食材として広く知られていて食べたいと思ってはいるものの調理法がわからない、という人が多いのも事実です。ラムとハーブ、調理法との相性を探りながら、家庭でも簡単にできるレシピを作成したいと思います。
受講後の考案レシピ:ハーブと柑橘香る ラム肉の白ワイン煮込み
北島真澄 Weekend Citron
東京・世田谷の自宅キッチンの料理教室を通じて、旬の野菜のおいしさや食べることの大切さを伝えている。毎月テーマ野菜を決め、手軽に作れる世界各国の家庭料理を紹介。大手食品メーカーの商品やレシピ開発に携わるほか、料理メディアへの寄稿、撮影スタイリングなど活動は多岐にわたる。
https://weekend-citron.com
ラムはスーパーマーケットなどでよく見かけるようになったものの、好き嫌いが分かれるかもしれないと躊躇して、料理教室ではなかなか手を出せずにいました。田淵シェフが教えてくださった、あらかじめレモンやハーブでマリネして焼く方法だと、身近な材料でできますし、ラムのニオイも気にならず、なじみのない方でも親しんでいただけそうです。得意分野である野菜をプラスして、私らしいレシピに仕上げたいと思います。
受講後の考案レシピ:ラムステーキ 新玉ねぎ添え バルサミコソース
text: Noriko Hane photo: Hiroyuki Takeda