日々、料理に研鑽を重ねているのは、シェフも料理家も同じ。
一方で、シェフが飲食店でゲストに料理を提供するのと、家庭料理のコツを教えるのでは異なる視点が必要だ。
そこで、生産者、プロのトップシェフ、料理家の三者の交流を広げ、互いに刺激し合い、ともに料理業界を盛り上げる。
そんな新しいコミュニティを構築するためにスタートした企画が、この「料理王国アカデミーサロン」。
今回は北鎌倉に店を構える太田成志シェフに、4人の料理家が学んだ。
2021年末に始まり、4回目を迎えた「シェフに聞く、料理王国アカデミーサロン」。一線で活躍するシェフと料理家とを食材を通じて繋ぐ場として、会を重ねるごとに好評を博している。今回登場してくれたのは、鎌倉にあるフランス料理店「ル・マルカッサンドール」の太田成志シェフだ。
太田シェフは石川県金沢で店舗を構えていた経験もあり、また、今回の食材のノドグロについてもなみなみならぬ思いがある。
「金沢で初めてノドグロの塩焼きを食べたときに、こんなにおいしいものなのかと衝撃を受けたんです」と太田シェフ。
身が締まり、白身魚ながら上質な脂と旨みがしっかりある。以降、すっかり気に入り、鎌倉に移った現在も、魚介類は石川県から取り寄せるほどの入れ込みようだ。
そんな太田シェフが披露してくれたメニューは、「ノドグロのポワレ、リゾット添え オマール海老のビスクのソース」と「ノドグロのブランダード風」の2品。どちらもベースとなるのは、ポワレである。
ノドグロは3枚におろし、中骨を取り除く。このとき、身が割れやすいので、ていねいに行うこと。そうして熱したフライパンにオリーブオイルを入れ、皮目を下にして中火で焼く。ノドグロは反りやすいので、指で押さえて平らにする。皮目が焼けたらひっくり返して身の面を焼く。すでに魚に火は入っているので、表面に焼き色をつけるくらいでよい。
「ノドグロのポワレ、リゾット添え オマール海老のビスクのソース」では、このポワレをそのまま使う。添えるリゾットは、みじん切りにした玉ねぎをスュエし、米を入れ、アサリのジュを加えたチキンブイヨンを注ぐ。塩とターメリックを加え、沸いたら蓋をして180℃のオーブンに10分入れる。おろしたグラナ・パダーノをたっぷり加えて、混ぜ合わせればでき上がりだ。
皿をまとめるのは、オマール海老のビスクのソース。鍋にオマール海老を入れて、ブランデーと辛口の白ワインを注ぐ。水、香味野菜、香辛料を加えて、弱火にかける。野菜がしんなりしたら、オマール海老を麵棒で潰し、トマトペースト、水を加えてパプリカとカイエンヌペッパーを入れ、コトコト煮る。1時間ほど火にかけたらシノワで濾し、生クリームと水でといたコーンスターチを加えて、とろみをつける。あとは彩りよく皿に盛れば完成だ。
「ノドグロのブランダード風」は、干し鱈と牛乳を使う南仏の料理をヒントに、ガレットの要素を加えた一品。ノドグロのポワレと茹でて軽くつぶしたじゃがいも、ざっくり切ったイタリアンパセリを合わせる。じゃがいもは少し形を残すと、食べたときに食感の程よいアクセントになる。円型に形を整え、フライパンでこんがりと焼く。
美しい盛りつけもフランス料理の大事な要素。グリンピースのソースを敷き、ノドグロのブランダード風を置く。ビーツ、牛蒡、色味のある2種のじゃがいも、紫のシャドークイーンとピンク色のノーザンルビーをチップスにして、立体的に飾る。
フランス料理というとバターたっぷりで濃厚、というイメージがあるが、ほとんどバターを使わずヘルシーに仕上げる太田シェフのアプローチ。プロならではのちょっとしたコツや細かい手法も間近に見られ、充実の学びの場となった。
太田 成志
1970年神奈川県生まれ 辻調理技術研究所卒業後、大阪のフランス料理店「エプヴァンタイユ」入社。単身渡仏し、星つきレストランやベルギー王国王室御用達レストラン「ル・サングリエ・デ・ザルデンヌ」で5年の修業を積む。帰国後、石川県金沢市のフランス料理店料理長、在日ベルギー大使館公邸料理長を経て、2004年石川県金沢にて「ル・マルカッサン」開業。14年、店名を新たに「ル・マルカッサンドール」として、神奈川県北鎌倉に開店。
Le Marcassin d’or
神奈川県鎌倉市山ノ内179-4
TEL 0467-91-1336
11:30~14:30(13:00LO)、17:30~22:00(20:00LO)
土・祝日休
児玉ゆきこ Salon d’igrek(サロン・ディグレック)
東京の老舗日本料理店の家庭に育ち、幼少の頃から料理とおもてなしの基礎を学ぶ。イタリア料理店、日本料理店、病院給食事業に携わり、ル・コルドン・ブルー東京校で学ぶ。駐日フランス大使館公邸厨房にて研修と調理を経験。2010年より、日本料理とフランス料理のおもてなし料理教室を主宰。
https://yukikostyle.amebaownd.com
太田シェフのお料理はどちらも素材の持ち味を大切にし、野菜もたっぷり使った、やさしい味わい。フランス料理と日本料理の両方を料理の軸としている私にとって、フランス料理の技術で、日本料理らしい素材感を前面に出す、こういうやり方があるのだな、と感じました。とろみをつけるのに日本料理だと片栗粉ですが、フランス料理だとコーンスターチ。牛蒡は水分が多いのでコーンスターチをまぶすとカラッと揚がる、というのもためになりました。
受講後の考案レシピ:ノドグロのフリール 和ハーブのレムラードソース
道下欣子 Salone Felice
小学生の時に作ったカレーライスがきっかけで料理に興味をもつ。イタリア・フィレンツェで各地の伝統料理を、ル・コルドン・ブルー東京校に入学し、フランス料理・菓子を学ぶ。現在、フレンチ、イタリアンをベースにしたおもてなし料理と、薬膳を取り入れた体にやさしいごはんを案内。
https://salone-felice.net
ポワレ自体は、フランス料理で魚を調理するときによくやる技法。先日も私の教室で、イサキを使ったばかりです。ノドグロは活用したことがないのですが、今回のアカデミーサロンで詳しく知れたので、家庭のおもてなしにもふさわしい料理にしたいと思います。オマール海老のビスクのソースはさすがフランス料理、納得の重層感でした。仕上げの生クリームやコーンスターチはあってもなくても、好みで使えばいい、とお聞きし、アレンジの幅が広がりそうです。
受講後の考案レシピ:ノドグロのポワレ ナージュ仕立て チーズリゾットを添えて
戸根みちこ Michiko’s Cooking
料理家・圧力鍋料理研究家。神奈川県横浜市出身。2017年より、東京都大田区で家庭料理教室を主宰。普段使いの材料で気負わずにできる健康的な料理を提案。作りやすさに定評があり、企業・雑誌向けのレシピ開発やワークショップ講師、コラム執筆、テレビ出演など、幅広く活躍。
https://michikoscooking.amebaownd.com
プロの料理人の方の厨房に入る機会はなかなかなく、それだけでも刺激的な時間でした。下ごしらえのやり方をしっかり見られ、本当に勉強になりました。ちょっとしたこぼれ話もなるほど、と思うことが多く、じゃがいもは冷蔵庫だと長期間保存でき、かつ熟成がかかって甘みが増す、といったことなど、日々の暮らしに役立つ情報もありがたかったです。私が手がけるのは家庭料理。教わったことを踏まえて、簡単に手軽にできる料理を考えてみます。
受講後の考案レシピ:ノドグロの旨味たっぷり炊き込みご飯
鈴木佳代子
2000年より各国料理を学ぶ傍ら、フードコーディネーター専門校に通う。タイ・バンコクにて料理研究家のアシスタントを務めながら、タイ文部省認定のWandeeCulinarySchool、各料理学校、現地レストランで料理を学び、帰国。現在、タイ料理研究家、フードコーディネーターとして活動中。 https://knoow.jp/@/kayokosuzuki
フランス料理とタイ料理とでは、料理に対する考え方が違い、タイ料理は五味をはっきり打ち出す料理が多いです。しかし、ともに大事なのは素材を知ること。今回のテーマのノドグロにしても、どういう魚かを知ることでどう調理すればいいのかが見えてきます。ノドグロは白身魚ながら脂があって旨みもある。タイにも白身魚を使う料理はあるので、自分の引き出しと相談しながら、私ならではのタイ料理のエッセンスが存分に感じられるレシピを作りたいと思います。
受講後の考案レシピ:ノドグロのポワレ グリーンカレーソース
text: Noriko Hane photo: Hiroyuki Takeda