クリスマスと英国、そしてアフタヌーン・ティーの良好な関係

クリスマス・シーズンたけなわの今、イギリスでもアフタヌーン・ティーはホテルの目玉商品として大注目。リッツ・ロンドンのオーナーが所有する5つ星ブティック・ホテルの世界へ、ゆるりとお連れしよう。

クリスマス・シーズンたけなわの今、イギリスでもアフタヌーン・ティーはホテルの目玉商品として大注目。リッツ・ロンドンのオーナーが所有する5つ星ブティック・ホテルの世界へ、ゆるりとお連れしよう。

クオリティタイム、という言葉がある。どのような形であれ、ゆっくり丁寧に楽しむティータイムはその最たるものだ。なぜなら純粋にお茶を楽しむという行為は、無為のようでいて、有為そのもの。人生に潤いをもたらす大切なリセットの時間だから。それが英国流の優雅なアフタヌーン・ティーとくれば、クオリティもいや増すというものだ。

そういえば日本でもホテルでアフタヌーン・ティーを楽しむ人が増えていると聞く。その生まれ故郷で暮らす身としては、なんとも嬉しい限りだ。ディナーまでの小腹がすく時間帯に、サンドイッチやお菓子などをつまむ習慣は英国貴族の館で19世紀半ばに生まれた。しばらくすると現在のような三段トレイのティースタンドが生み出され、20世紀に入る頃にはいつしか一般大衆へ広まっていったという。

ロンドンで暮らしていると、あちらこちらから季節ごとにアフタヌーン・ティーの話題が聞こえてくるのであるが、先日2014年に誕生した話題の5つ星ホテル「The Beaumont / ザ・ボーモント」のアフタヌーン・ティーを試すチャンスがあったのでレポートしたい。テーマはもちろんクリスマス。しかもこのホテルらしい世界観を付け加えている。

ホテルのエントランス・エリア。奥に見えているのはルネ・マグリットをテーマにしたマグリット・バー。
ホテルのエントランス・エリア。奥に見えているのはルネ・マグリットをテーマにしたマグリット・バー。
アフタヌーン・ティーをいただくギャツビー・ルームは、1920年代の建築をイメージしたライブラリー・ラウンジだ。
アフタヌーン・ティーをいただくギャツビー・ルームは、1920年代の建築をイメージしたライブラリー・ラウンジだ。

メイフェア地区にあるボーモントは、古き良きヨーロッパ風グランド・カフェを再現させたら右に出るもののいない、ロンドンきってのレストラン事業家が手がけたブティック・ホテルだ。20世紀初頭の上質なグラマラスは彼らが最も得意とするところで、ボーモントもしかり。現在はリッツ・ロンドンのオーナーの手に渡り、独特のカリスマを醸成中。知る人ぞ知るシックなバー「Le Magritte / マグリット」は、私もお気に入りだ。

アフタヌーン・ティーは「Gatbsy’s Room / ギャツビー・ルーム」でいただく。ここでは何もかもが1920年代へのオマージュだ。ホテル・オーナーは「禁酒法時代のマンハッタンから戦前のメイフェアに逃れ、ゲストハウスを設立したアメリカ人、ミスター・ボーモント」という設定。今回「大西洋」をテーマとしたクリスマス・アフタヌーン・ティーとなっているのも、大西洋を横断するロンドン・ニューヨーク間の豪華客船の旅がもてはやされた1920年代に通じている。では広々とした海洋の旅に出るとしよう。

英国流のアフタヌーン・ティーは、まず繊細なサンドイッチから始まる。ゴードン・ラムジー傘下からクラリッジズ、ゴーリングなどを渡り歩いたエグゼクティブ・シェフ、 ベン・ボイナムス(Ben Boeynaems)さんの監修で、クリスマスらしい七面鳥のローストとクランベリー・ソース、スモークサーモンとクレソン、黒トリュフ風味のエッグ・マヨネーズなど上質素材を使った豪華フィリングのサンドイッチに舌鼓を打つ。

右はアフタヌーン・ティーに合わせたいティー・カクテル「Platinum Punch」。ジン・ベースで、アール・グレイやグレープフルーツ、スパークリング・ティーなどを合わせた極上のパンチだ。
右はアフタヌーン・ティーに合わせたいティー・カクテル「Platinum Punch」。ジン・ベースで、アール・グレイやグレープフルーツ、スパークリング・ティーなどを合わせた極上のパンチだ。
クリスマスらしくクランベリーを焼き込んだスコーン。
クリスマスらしくクランベリーを焼き込んだスコーン。

次にいただくのはスコーン。この季節特有のベリー、クランベリーをレーズンの代わりに焼き込んだ可愛らしいツルツルのスコーンに、コーンウォール産クロテッド・クリームをたっぷり付けて。スコーンは大別してビスケット・タイプとブレッド・タイプがあるが、ここはホテルにしては珍しく後者で、軽い歯ごたえを楽しんだ。そして最後に、ケーキ類で締める。4種のケーキの登場に、テーブルは一気に華やいだ。

ツリーの飾り玉に見立て、真っ赤なクランベリージェリーでコーティングしたダークチョコレート・ムースは夢のようになめらか。丸いチーズケーキには爽やかなマンダリン風味が薫っている。雑味を一切感じない自然派モンブラン・クリームを堪能するミニ・エクレア。そしてクリスマスらしいスパイスが漂うバナナブレッドは、チョコレートでコーティングしてある。いずれも適度な甘さで見目麗しく、味からは非常に上質な自然素材を使用していることがわかった。

ケーキ・スタンドの登場。イギリスのクリスマスらしく、ミニサイズのミンスパイも忘れずに。
ケーキ・スタンドの登場。イギリスのクリスマスらしく、ミニサイズのミンスパイも忘れずに。
自然素材の優しい甘さで、後味も良い。ヴィーガン用のアフタヌーン・ティーも用意されている。
自然素材の優しい甘さで、後味も良い。ヴィーガン用のアフタヌーン・ティーも用意されている。

ボーモントのアフタヌーン・ティーは、飾らない質実剛健さがいかにもイギリスらしい。そのインテリアと相まって極上の時間を過ごせること請け合いである。

ロンドンにおけるアフタヌーン・ティー市場の成長は天井知らずだ。誰もがクオリティタイムを求め、純粋にお茶と軽食を楽しむためにスペシャルな空間へと足を向ける。インスタグラム時代の今、ホテルやレストランにとってもアフタヌーン・ティーは人を惹きつけるための重要なセールス・ポイントとなっているのだ。

トレンドももちろんある。王室の行事や季節性を取り入れることはもちろん、近年は柚子や桜、味噌など日本のフレーバーも人気。また通常メニューに加えて、ヴィーガン、グルテン不使用、お子様用、ハラールなどの代替オプションは必須で、今や市場の2割にまで達しているという。

イギリスにおけるアフタヌーン・ティー市場は、今後さらに成長を遂げていくだろう。そのうち、かの有名な英国式朝食も、三段トレイで供されるようになるかもしれない。

The Beaumont
https://www.thebeaumont.com

アール・デコを代表する画家、ジャン・デュパによるハイド・パークをテーマにした絵画が、ギャツピー・ルームに華やぎを添える。
アール・デコを代表する画家、ジャン・デュパによるハイド・パークをテーマにした絵画が、ギャツピー・ルームに華やぎを添える。

text・photo:江國まゆ Mayu Ekuni

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