2015年にノマの初の日本でのポップアップを行うなど、美食に力を入れるブランドとしても知られるマンダリン オリエンタル 東京。
マンダリン オリエンタル 東京の8人のシェフが、8人のゲストのためだけに料理を作る、エクスクルーシブなイベントが22年10月にホテル内の「タパス モラキュラーバー」で行われた。プレステージシャンパーニュ、キャビアとのマリアージュが楽しめるというエクスクルーシブな会。ホテルの料理とサービスの最高峰が集い、タイムマシーンのようなギフトに至るまで「記憶に残る」スペシャルな日を彩る演出とは。
ホテル内に11のダイニングを持つマンダリン オリエンタル 東京。それを束ねるのが、イタリア人のダニエレ・カーソン総料理長。チームの指揮をとるだけでなく、こよなく食の現場を愛し、特に情熱を傾けるピザ作りのため、自らピッツァイオーロとして「ピッツァバー on 38th」に立つこともある。ちなみにこの店は、世界のピザのランキング、最新の50Top Pizzaのアジア太平洋地域の3位、ダニエレ氏は、「今年のピザ職人」にも選ばれている。
また、今回の注目は、料理とプレステージシャンパーニュ、キャビアとのマリアージュが楽しめるという、初の企画。
マンダリン オリエンタル 東京が誇るソムリエ陣が、プレステージ・シャンパンのペアリングを提供するだけでなく、全皿に使われ、シャンパンと黄金のマリアージュを奏でるのは宮崎県の秘境、椎葉村で育てられた平家キャビア。
実は本来、平家キャビアの社長、鈴木宏明氏自らが会場を訪れ、ゲストの前でチョウザメからキャビアを取り出し、フレッシュなキャビアを味わってもらう予定だったが、台風14号による水害で養殖場も大きな被害も受けたために、ビデオメッセージでの参加。各席に置かれたメッセージカードに印刷されたQRコードを各自のスマートフォンで読み込むとビデオにリンクする形で、回復しつつある養殖場からのメッセージを伝えた。
また、スペシャルな体験の代わりに、と、当初予定になかったシャンパーニュ、クリスタルが提供された。
イベントの指揮をとったダニエレ氏は「大きな打撃を受けた養殖場だが、使うことでサポートしたい」と語った。
会場となった、タパス モラキュラーバーは、ゲストとのインタラクティブなコミュニケーションが楽しめることでも知られる。普段は牛窪健人シェフが五感に訴えかける料理をつくるが、今日はここにホテル中のシェフが入れ替わり立ち替わり登場し、お互いにコミュニケーションをとりながら、目の前の厨房で料理を仕上げ、料理の背景について説明してゆく。ゲストにとっても、普段訪れてはいても、近い距離感で話すことの少ない店のシェフたちと気軽に話をすることができる、貴重な機会だった。
この日のメニューとペアリングは以下の通り。
◎ドンペリニヨン2012&タルタルステーキとキャビアをたっぷり詰めたドーナツ
(『タパス モラキュラーバー』、牛窪健人シェフ)
キャビアと和牛の滑らかで上質な肉を使ったステーキタルタルにスモーキーないぶりがっこ、苦味要素としてカカオニブを入れたドーナツ。スモーク香とブリオッシュのようなドーナツの生地の味わいがドンペリニヨンとの味わいを深めていました。
◎ヴーヴクリコ ラ グランダム2012&エッグタルトと燻製したチョウザメ
(中村友彦ヘッドベーカー)
チョウザメの肉に下味をつけてから素揚げにしてスモークしたものを入れ、焼いたキッシュにキャビアを乗せ、ポテトのエスプーマを添えて。
卵の硫黄感と、2012年ヴィンテージの還元香とを合わせたペアリング。キリリとした味わいで、キャビアの旨味がダイレクトに感じられる。
◎アルマン ド ブリニャック ブリュット ゴールド&ミルキーなたらば蟹とチョウザメ 鴨の卵の塩漬け(広東料理『センス』、鈴木豪シェフ、中間利幸シェフ)
広東料理の水牛のミルクと卵白を炒めた料理を作ったのは中間シェフ。タラバガニや貝柱を加え、塩漬け卵黄で味をまとめています。「本来中国にないものは使わない、地味な石を磨いて光らせる料理を作っていきたい」と語ります。フリットは胡椒とカボスで少し味を引き締めて。
◎アルマンド ブリニャック ブリュット ゴールド&蛤と雲丹を纏った自家製マッロレッドゥス ルッコラのピストー
(ダニエレ・カーソン総料理長)
出身地でもあるサルデーニャのパスタ、マッロレッドゥスはもっちりした食感が魅力。唐辛子、ニンニク、ルッコラを使ったピストー(ペスト)ソースに冬のサルデーニャの味、雲丹を乗せて。
◎ルイナール ドン ルイナール ロゼ&舌平目と海老のムースのルーラード まこも茸 白ワインとシェフフィッシュソース
(バンケット、石川潤シェフ)(『タパス モラキュラーバー』、牛窪健人シェフ)
老若男女誰もが好きな「味の最大公約数」を知るバンケットの石川シェフは、まこも茸を舌平目で巻いて蒸したものに、クラッシックなマッシュルームのトゥルネ、細長いパイ生地のバトンにキャビアを乗せて。
◎クリュッグ グランキュヴェ168エディション&国産A5牛フィレ肉とリードヴォーのグルノーブル 蕪のブレゼ
(フレンチファインダイニング『シグネチャー』、ニコラ・ブジェマ副総料理長)
パリのトゥールダルジャンなど、クラッシックフレンチで培われたソースも魅力のニコラシェフの料理は、キメの細かい霜降りの和牛フィレ肉とリードヴォーを、シャンパンを使った酒精強化ワイン、ラタフィアのコクが楽しめる絶品のソースで。一番下にはポテトのカリカリのガレット、和牛の上にはキャビア、柑橘を効かせたリードヴォーの上にはスライスアーモンドを乗せて。シャンパン由来のラタフィアだけでなく、ナッツや柑橘など、クリュッグの味の要素も織り込んで。さらに、特に和牛と相性の良い、スミレや革、スパイスの香りが楽しめるクラッシックなシャトー・プリュレ・リシーヌの2009年ヴィンテージも提供され、2種のペアリングを楽しむ贅沢な内容となった。
◎ウォッカ ベルーガ ノーブル セレブレーション&レモンとキウイの組み合わせ 昆布のキャンディー&プティフール
(ステファン・トランシェ エグゼクティブ ペストリーシェフ)
ドライアプリコットに漬けた甘味が魅力のこちらのウォッカには、ゆずとレモンのソルベ、キウイなどの酸味を生かし、かつ昆布のキャンディーで旨味を加えたデザート。
雲をデザインしたデザート「KUMO®」でも知られるステファンシェフ、ふんわりとしたマシュマロの先をあぶって香ばしく仕立てたミニャルディーズで締めくくり。
そして、冒頭お伝えした「タイムマシーンのようなギフト」とは、このイベントの記念として、プロのフォトグラファーによる記念撮影が行われ、後日、ゲストの名前が入ったパーソナライズされたフォトブックが贈られた。
1日限定、二回のディナーで合計16人のゲストへのスペシャルディナー。大きなホテルでありつつも、今の時代に合わせたスモール&ラグジュアリー、忘れられない体験の演出だった。
text:Kyoko Nakayama