ノンアルコールの需要が高まっている。求められているのはアルコールの単なる代替ではなく、満足度の高い食体験だ。その選択肢として注目を集めるフランスのプレミアムジュースブランド「アラン・ミリア」の創業者らが来日し、2026年2月に東京・日本橋でプロ向けのテイスティングセミナーを開催した。ペアリング提案にとどまらず、飲料の枠を超えた“素材”としての活用方法まで、現場に向けた実践的なアイデアが披露された。

「長い間、フルーツジュースはありふれた平凡なものとして扱われてきました。その価値を一段上のレベルへ引き上げることが目標でした」。
セミナーは、アラン・ミリア氏のそんな言葉で始まった。
フランスで1997年に創業した、フルーツジュースブランド「アラン・ミリア」。「完熟フルーツをかじったときの感動をジュースにして伝えたい」と、高級ワインに匹敵する品質のジュースとネクターを生み出した。

欧州を中心にノンアルコール市場の需要が高まるなか、同ブランドは“贅沢な選択肢”として、高級ホテルや星付きレストランで採用を広げている。
パリでは五つ星ホテルの80%以上で採用されているほか、ラグジュアリーブランドでも上質な顧客体験の一部として提供されている。単なる飲料ではなく、体験価値として位置づけられている点も特徴だ。現在は世界60カ国で展開し、とりわけ日本は世界最大の市場となっている。

「私たちはあくまで職人です」と続ける。「自分たちのサヴォワールフェール(職人としての技術と経験)に基づき、最良と考えるものをつくるだけ」と、自らのものづくりの姿勢を表現した。
市場のニーズに迎合するのではなく、自らが最良と考える品質を提示し、用途や文化に応じて選んでもらう。それが同ブランドの基本姿勢である。
使用する果実は、品種や産地、成熟度を見極めて選定。香料や甘味料、濃縮果汁は加えず、果実本来の個性や風味、質感をそのまま表現することで、ガストロノミーの現場で活用できる品質を追求している。

フランス・リヨン郊外で果樹園を営む家に生まれ育ち、自身も果樹園経営に長く携わってきたアラン・ミリア氏。「高級ワインに匹敵するようなプレミアムジュース」という目標が、ジュースづくりの基盤となっている。
原料となる果実は、テロワールや成熟度を見極めながら選定される。品種や産地だけでなく、その年の気候や成熟状態によって糖度や酸味、香りのバランスが変化するからだ。
ジュースづくりでは果実の個性を見極めながら配合やバランスを整えることから、「私たちの仕事はパティシエに近い」と語る。その言葉に納得するように、試飲しながら頷く参加者たちの姿が印象的だった。

ワインの技術は原料の選定や製造工程にも応用されている。果実本来の風味や質感を損なわないことを優先し、必要に応じてワイン同様のろ過技術なども用いられる。
シャルドネ種とピノ・ノワール種の2種を展開するスパークリングは、フランス最古のワイン産地のひとつ、ガイヤックで収穫。単一品種で、年に一度だけ生産される。
ワイン用ブドウは糖度が高くなりやすいため、収穫時期を早めにすることでグリーンな香りを生かしている。ブドウは収穫後すぐに搾汁、その間も0〜2℃で管理する。
その工程は白ワインの醸造に通じ、ジュースにおいては発酵・アルコール化を防ぐため、より厳密な温度管理が求められる。こうした丁寧なアプローチによって、ワインのような繊細な香りを備えたジュースが生まれる。

原料はフランス産を中心に使用するが、表現したい果実であれば、海外の素材も積極的に取り入れる。
例えば、日本の柚子。その繊細で個性的な香りと酸味に着目し、希釈して楽しむタイプの「コンセントレ」として製品化する。個性を最適な形で表現することを重視するため、日本から果汁を取り寄せ、フランスで加工する。
「とくに柑橘系は特別な技術が必要になります。生産者が最もおいしい状態に絞る技術を持っています」。自ら生産に携わる立場だからこそ、現地の生産者が持つ熟練の技術を信頼し、生産者と二人三脚で商品化を目指す。

製品には果実を絞ってそのまま瓶詰めするストレートジュースの他に、果実の特性に応じて加水や味のバランス調整を行うネクターもあり、どちらの製造プロセスを採用するかは、どうすればそのフルーツの魅力を一番引き出せるかを判断し、選ばれる。
濃縮還元は使用しない、果実本来の風味を生かしたナチュラルなフルーツネクターだが、その中でも特に人気が高いのが「マンゴー」だ。マンゴーは世界に約1000種あるが、ペルーのシャトデイカ種を厳選。生産量は全体の1%以下という希少な品種だが、ほかにはない豊かなアロマを備えている。
マンゴーは果汁だけでは果実らしさが十分に感じられないため、ピュレを作り、最適な割合を研究したうえで果汁とブレンドする。
マンゴーのように粘度が高い果実や、酸味の強い果実は、バランスを整えることで、その風味やテクスチャーを最適な状態で表現する。素材の特性に合わせて設計された手法の積み重ねが、果実の個性を最も魅力的なかたちで表現している。

セミナーでは、ジュースを単なる飲料としてではなく、料理の構成要素の一つとして捉えたペアリングが提案された。


最初の一皿は、ヨーロッパ産ロブスター“オマール・ブルー”のうま味に、「ラズベリーネクター」の甘味と酸味を重ねた料理。
合わせたのは、「コックス種アップルジュース」。フランス・ノルマンディー地方などで栽培される品種だ。軽く濁りのあるジュースは、約10年をかけて改良を重ねてきたノンフィルタージュースを沈殿させない技術で、果実そのものの風味と質感をそのまま表現する。
コックス種のしっかりとした酸味がオマール海老の甘味とうま味を引き締め、料理全体の輪郭を際立たせる。視覚と香りの華やかさが印象的で、コースの導入として期待を高める組み合わせとなっていた。


続いて登場したのは、フォアグラのムース。「ベルジュロン種アプリコットネクター」でコーティングし、ゴマのヌガチーヌを添えた。
ベルジュロン種は、アラン・ミリア本社のあるフランス・ドローム地方を代表する品種。アプリコットの香り高さとやわらかな酸味、自然な甘みが特徴。料理ではフォアグラのコーティングにも同ネクターを使用し、レバー特有の重さをやわらげた。
ペアリングにも同じアプリコットネクターを合わせることで、果実の甘みと酸味がフォアグラの濃厚な脂をすっきりと整え、余韻に軽やかさをもたらす。料理とドリンクが重なり合うことで、味わいに奥行きを与える構成となっていた。


3品目はデザート。「サマーペアネクター」を合わせたショコラクレームが用意された。
ペアリングは「スパークリング ピノ・ノワール種 葡萄ジュース」。ショコラの甘みにハチミツのような香りが重なりコクを増し、白い花を思わせるハーブのようなニュアンスがスパイスの香りと絡み合い、複雑な風味を生み出す。
シャルドネよりも香り高く軽やかな泡が、デザートの余韻を心地よく整え、コース全体を軽やかに締めくくっていた。
一連のペアリングは、ジュースが料理の味わいを補完するだけでなく、酸味や香り、テクスチャーを通じてコース全体のバランスを整える存在であることを示していた。

「日本は特別です」。
日本が最大の輸出市場である理由について、アラン・ミリア氏は日本の食文化との親和性を挙げる。「知的好奇心が豊かで食への探究心が強く、クラフトマンシップを尊重する文化がある。僕と同じようにね」と微笑むと、会場には和やかな空気が広がった。
日本の市場では、製品の背景にあるストーリー性や自然素材への信頼が重視されるという。製造工程には透明性や誠実さが求められ、そうした姿勢が、ブランドの考え方と自然に共鳴している。

現在、アラン・ミリアでは約40種のジュースとネクターを手掛け、日本ではその半数となる約20種を導入する。フランスの約10倍を売り上げ、日本が最大消費国となるブドウジュースは5種類を展開する。
また新たに、日本未導入の希少品種が今年ラインナップに加わる可能性があるとのことだ。
試飲を通して、誠実なものづくりの姿勢と、プロフェッショナルの現場から信頼を集める品質の高さを実感する内容となっていた。
ジュースを飲料の枠を超え、料理とともに味わいを構成する素材として提案するアラン・ミリア。そのアプローチは、ガストロノミーにおけるノンアルコールの新たな役割と可能性を示していた。
アラン・ミリア
https://order.arcane.co.jp/alainmilliat.html
公式インスタグラム
https://www.instagram.com/alain_milliat/
Photo・text: Yuki Kimishima
