5月28日、東京・九段会館テラスにて、フランス全国酪農経済センター(CNIEL)と欧州連合(EU)が主催するフランス産牛乳製チーズのセミナーが開催された。今回のテーマは、「暑くても食べたい!爽やかに楽しむフランスチーズ」。講師には昨年と同様にファムラルト・バスティエン氏を迎え、自らチーズ教室を持つチーズプロフェッショナルたちが、牛乳製チーズを愉しむ夏ならではのペアリングと発想の転換を学んだ。

講師のファムラルト・バスティエン氏は、チーズ専門家として自国フランスをはじめ、アジア諸国でチーズの普及活動に取り組んできた経歴を持つ。セミナーの冒頭ではまず、日本で夏にチーズが消費されにくい構造的な三つの理由が挙げられた。
一つ目は「暑さ」そのもの。気温の上昇は食欲を低下させ、同時に屋外でのチーズ保存という現実的な問題も生む。ピクニックや海辺、ハイキングといったシーンでは、温度管理のむずかしさがチーズを持ち出しにくくさせる。二つ目は「季節感のミスマッチ」。チーズ=重い冬の食べ物というイメージは根強く、消費者のみならずチーズを提供する側にもこの固定観念は残っている。三つ目が「サマーボディ」志向と結びついた「チーズ=高脂肪」というイメージだ。
こうした課題を克服するためにファムラルト氏が提案したのは、食材や飲料とのペアリングの再考、季節のチーズを意識した品揃えと提案、そして販売や提供シーンにおける演出の工夫だ。「固定観念を変えるには、夏に合った楽しみ方を具体的に見せることが大切」というメッセージがセミナー全体を貫いていた。

ペアリングの実践に入る前に、フランス産牛乳製チーズの品質を語るうえで欠かせない「放牧」についても触れられた。フランスの乳牛の92%が牧草地や草原のある環境で飼育され、87%が年間170日以上を屋外で過ごしている。1頭あたりの平均飼育面積は2,000㎡に及ぶという。
牛が新鮮な牧草を自由に食べることができる季節はまさに夏だ。そのため、この時期に搾乳される牛乳は風味が豊かで品質が高いとされる。つまり、夏に生産されたチーズにはその土地の自然、いわゆる「テロワール」が最も鮮明にあらわれる。夏のチーズは「敬遠すべきもの」どころか、その季節にしか得られない恵みを宿した存在なのだ。

次に、セミナーの核心でもある、5種類のフランス産牛乳製チーズを用いたペアリングの紹介がスタート。それぞれのチーズの特性を最大限に引き出しながら、夏らしい食材・飲料との組み合わせが提案された。かつお節や梅酒など、日本の食文化に寄り添ったアレンジが随所に盛り込まれているのも印象的だった。

フレッシュチーズが持つヨーグルトを思わせる爽やかな酸味と、日本酒スパークリングが醸す乳酸の風味が自然に溶け合うペアリング。レモンの柑橘酸がチーズの酸を引き立て、全体に軽やかな印象に。脂ののったサーモンが土台として全体を支え、その油脂分を日本酒の泡がすっきりと洗い流す。サーモンと相性の良いディルの青い香りが夏らしさを演出し、口の中に爽やかな余韻が残る。

生クリームを思わせる滑らかさとミルキーな甘みを持つブリア=サヴァラン・フレは、夏のデザートや間食にふさわしいチーズ。桃の甘みとチェリージャムの酸味が寄り添い、チョコレートがほろ苦いアクセントを加える。飲料には、アルコールを介さずとも成立する組み合わせとしてアイスジャスミンティーを選択。桃とジャスミンが共鳴する華やかな香りが、チーズのなめらかさとともに涼しさをもたらす組み合わせとなった。

「エテ(été)」とはフランス語で「夏」を意味する。夏の牧草を食んだ牛の牛乳から造られるボーフォール・エテは、まさに夏の恵みを閉じ込めたチーズ。バターのような豊かなコクと存在感のある塩味は、フレッシュトマトと合わせることで口の中にスッとした軽さをもたらす。辛味をきかせたきゅうりがチーズとトマトの橋渡しとなり、ドライなロゼワインがフレッシュな切れ味でチーズと呼応する。夏の屋外でも映える、力強くも爽快なペアリングだ。

クセの強いイメージがあるブルーチーズの中でも、フルム・ド・モンブリゾンはドライでコンパクトにまとまった風味が特徴で、刺激は比較的マイルドといえる。ルッコラの青みとチーズの青カビが調和し、サラダの一素材として自然に溶け込む。生ハムのシンプルな塩気とオリーブオイルのコクでチーズの複雑な味わいが際立ち、梅酒の甘みと果実感がブルーチーズと蜂蜜の定番ペアリングのような役割を果たす。和の飲み物が、フランス産チーズの新たな可能性を引き出した一例だ。

ウォッシュタイプの代表格であるエポワスは、野性的で力強い風味とトロリとした濃密な食感を持つ。ホワイトビールの苦みがその力強さとバランスをとり、クリーミーな泡がチーズのなめらかなテクスチャーと共鳴。さらに同じ麦由来のパンがビールとチーズをつなぐ。そして驚きを生むのが、うま味の組み合わせだ。セミドライトマトのグルタミン酸、グリル椎茸のグアニル酸、かつお節のイノシン酸、三つのうま味成分が重なり合い、エポワスの存在感とぶつかり合うことなく高め合う。和の食材を巧みに取り入れた、このセミナーのなかでも特に独創的なペアリングとなった。

今夏のセミナーではペアリングの提案に加え、夏場のチーズ提供における実践的なノウハウも共有された。クリーミーなチーズは事前にカットせず、大きな塊のまま盛り付けることで乾燥を防ぎ、見た目の美しさも保てる。屋外のイベントではセルフサービスを避けてオーダー制にし、直射日光を避けることが品質維持の基本だ。チーズをラップで個別に包む、保護カバーを使う、保冷できる箱で輸送するといった工夫も、夏のシーンでチーズを活躍させるための知恵として紹介された。
プラトー(チーズの盛り合わせ)を演出する際には、季節の食材や草花、果物を添えることで、夏らしいビジュアルをつくることができる。「冬向けのイメージ」を払拭するには、見た目から変えていくことも重要なアプローチなのだ。
「暑い夏にチーズは重い」という思い込みを崩す鍵は、季節に合ったチーズの選択と、それを引き立てる食材・飲料との組み合わせにある。また、日本酒スパークリング、梅酒、かつお節といった、フランスチーズは日本の食文化と深く共鳴できるという可能性にも着目だ。夏の食卓に、フランス産牛乳製チーズを取り入れるアイデアとその具体例は、セミナーに参加したチーズプロフェッショナルたちに多くのヒントやインスピレーションを与えたようだ。

text: Hanayo Tanaka, photo: sono

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