日本におけるイタリア料理の黎明期からバブル、そしてすっかり定着するまで、常に現場からシーンを見て続けてきた奥村忠士シェフ。時代によって変わるもの、洗練される部分はあるが、根底をなすのは〝イタリアは郷土料理にあり〞。料理人として45年のキャリアを築いた今も、厨房に立ち、文献を読み解きながら、イタリア料理の本質を探求し続ける。
南青山でイタリア料理を作り続けて四半世紀以上。イタリア料理の真髄である郷土料理に敬意を払う姿勢はそのまま、奥村忠士シェフは今日も厨房に立つ。
バブルの時代には、独創性を前面に打ち出した、クレアテーヴァを手がけたこともあった。しかし、自らの根幹にあるのはイタリア修業時代に出合った素朴で力強い郷土料理。自分はどういうイタリア料理を目指せばいいのか、その答えを求めて「リストランテ アカーチェ」(以下、「アカーチェ」)をオープンする前に、奥村シェフは再度イタリアに渡る。
「ちょうど本国でも、イタリア郷土料理への原点回帰が起こっている時期でした。そんな風潮も後押ししてくれて、自分の目指す方向が固まりました」と奥村シェフ。基軸を郷土料理に据え、今の時代ならではの洗練さを加える。特別なメニューはないかもしれないが、これぞイタリア料理と長年通うファンも多い。
2020年からのコロナ禍で、緊急事態宣言下の自粛要請期間は、基本休業としていたが、予約が入れば、そのお客のために店を開ける。
「大変なときでもお客さまが来てくださるのはありがたいことです」。奥村シェフはしみじみとそう語る。お客が楽しみにするのは、奇をてらったところがなく、心までほっと落ち着けるいわばイタリア料理の定番。メニューには、修業時代から奥村シェフが作り続けているものもある。
まったく同じように作り続けているかというとそうではない。味に複雑味を持たせようとしたり、少し個性を立たせようとしたりなど色々と試みてきたが、「できる限り素材の持ち味がきっちり出るよう、料理を作りたいと思うようになりました」と奥村シェフ。
イタリア料理の定番のトリッパは、「アカーチェ」でも長年愛されている看板料理のひとつだ。トマトソースをトリッパに含ませるようにして仕上げていたが、いまでは添わせる程度に留める。トリッパもがっちりと下処理をするのではなく、うま味が感じられるところでやめる。
料理自体はシンプルなので、こういった一つひとつの工程で絶妙な加減が必要となる。そのあたりはやはり、長年の経験がモノをいうのだ。
〝イタリア料理は地方料理にあり〞と考える奥村シェフは、今も勉強を欠かさない。コロナ禍で時間にゆとりがある時をチャンスと捉え、古いレシピを紐解いて再現することもあるという。「野暮ったいと思えるレシピも真っ向から取り組めば、理にかなっていることが多いんです」と、少年のような目でうれしそうに話す。イタリア料理への情熱はまだまだ熱い。
リストランテアカーチェ
東京都港区南青山4-1-15
アルテカ・ベルデプラザB1
TEL 03-3478-0771
18:00~21:00LO
日月休
text: Sawako Yamada photo: Koichi Higashiya