そして、シーフードグリルの盛り合わせは、焼き方にポイントが。通常はスパイスなどでマリネしたシーフードをそのままオーブンやグリルで焼きますが「それだと、魚介類が硬くなってしまって美味しくない」と、ジョスパーオーブンで数分焼いてから、ライムやニンニク、クミンなどのスパイスを水に入れて煮出したソミュールのような液体に3〜4分漬け、仕上げで再度ジョスパーオーブンで2分ほど焼く、など工夫しているそう。ちなみに、バージュアルアラブ内では、養殖のシーフードは使わず、このプレートに使われているのも全て天然のものだそう。フランス産の天然のシーバスをはじめ、確かに、しっかりと脂が乗り、皮目に甲殻類の香りのある上質な味わい。インターナショナルなゲストに向けて、レモンバターソースが添えられていました。
「アラブ諸国と一括りにされがちだが、その食文化は大きく異なる。‘例えば、シリアでは朝食はパンにフムスなどの軽いものを食べる。それに対して、アラブ首長国連邦では、朝からしっかりと重い米を食べるなど、文化の違いがある」という。
アラブ首長国連邦では、スープやグレイビーがかかった料理が好まれるものの、シリア・レバノンでは、炭焼きが主流。「シーフードプレートも、炭の香りはシリアの好みだが、アラブ首長国連邦の人が好むシーフードを使い、スパイシーにアレンジしてある」のだそう。
その後に提供されたのは、肉のグリル盛り合わせ。
アレッポを代表するラム肉のケバブ、ハラビ(halabi)はケシュカシュ(keshkash)というトマトベースのソースが添えられています。通常は刻んだ野菜を煮込んで作りますが、ここでは、トマトやニンニク、玉ねぎ、ナスなどの全ての野菜を一度炭焼きにしてから皮を剥き、細かく刻んでから作っているだけあって、炭のスモーキーな香りと、野菜の糖分がしっかりと引き出された丸みのある味わい。
玉ねぎやトマト、パプリカ、ニンニク、ライム、唐辛子を刻んでから布で絞り、絞り汁に漬け込んだラムチョップはとても柔らか。秘訣は、ひとかけらだけ、キウイを入れること。「父はパイナップルを使っていたけれど、それだとパイナップルの味がしてしまう。キウイはそこまで味を感じさせずに、少量でしっかりと肉を柔らかくしてくれる」からだとか。
ラムのひき肉をレバノン風のパンに挟んで焼き上げたアライェス(arayes)は、しっかりと水やりをして育てた小麦の粉を使うことで、レバノン風パンがしっとりと仕上がるのだとか。
デザート「オマーリ」は、ミルクで煮た米の上にたっぷりのピスタチオとバターを乗せ、オーブンで焼き上げたもの。
古都・アレッポは「肥沃な三角地帯」と呼ばれた地域に位置する、豊かな作物に恵まれた都市。古来からシルクロード貿易の要として、またメッカ巡礼の要衝としても知られてきました。7世紀から10世紀にかけての大シリア時代、ビラード・アル=シャーム(シャームはダマスカスの古い名前で、ダマスカスの周りという意味)と呼ばれ、文明の中心でもあったシリア。
「アラブ料理といえば、観光化されて水タバコが吸えるのが売りの所もあるけれども、私がやりたいのは、本当のアラブ料理の味が楽しめるオーセンティックな店。歴史あるシリアの食には、手間ひまかけた手作りの食の良さが残っている。ここでは、既製品は使わず、一から手作り。それが父から教わった伝統的な料理の方法だから。父からは秘伝のスパイスミックスなど、多くのことを教わった。それに自分なりの工夫を加え、さらにシリアと元々同じ国だったレバノンや、地元アラブ首長国連邦、さらにはエジプトの食などを幅広く統合して、おいしさに拘った洗練された料理を提供していきたい」と話しています。
まだ再オープンしてからわずか3ヶ月、妥協なく日夜奮闘するスレイマンシェフの料理のさらなる進化に注目です。
2022年2月21日
text・photo:仲山今日子
ワールド・レストラン・アワーズ審査員。元テレビ山梨、テレビ神奈川ニュースキャスター。シンガポール在住時、国営ラジオ局でDJとして勤務。世界約50ヶ国を訪ね、取材した飲食店や食文化について日本・シンガポール・イタリアなどの新聞・雑誌に執筆中。